2021 Fiscal Year Annual Research Report
The chemical composition of the asteroid Ryugu is determined by X-ray fluorescence analyses
Project/Area Number |
20H02773
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
中井 泉 東京理科大学, 理学部第一部応用化学科, 教授 (90155648)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
由井 宏治 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 教授 (20313017)
圦本 尚義 北海道大学, 理学研究院, 教授 (80191485)
寺田 靖子 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 分光推進室, 主幹研究員 (90307695)
阿部 善也 東京電機大学, 工学研究科, 助教 (90635864)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | リュウグウ / 小惑星試料 / はやぶさ2 / 蛍光X線分析 / 化学組成 / 放射光X線分析 / 全岩化学組成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、リュウグウ小惑星試料の化学組成を非破壊蛍光X線分析により明らかにすることである。本年度は,その目的のために開発した①から⑤の手法を用いて実資料を分析し、⑥の成果を得て目的を達成した。 ①粉末試料を加圧成型せず波長分散型蛍光X線装置(WDXRF)の真空系へ導入し,定量分析を行う技術を確立し,実試料の分析に適用した。約0.03gの微量試料に対して炭素,酸素を含む23元素の定量分析を行った。酸素を単独の成分として定量することで,含水粉末試料に対してXRF単独で水の影響も考慮した分析値が得られることを示した意義は大きい。②エネルギー分散蛍光X線分析(ED-XRF)によりCからZnまでの元素を定量した。新SDD検出器を導入し、C専用の検量線を作成することで定量分析が可能になった。③高エネルギー蛍光X線分析(HE-SR-XRF)では、SPring-8のBL37XU(37.5 keV)、BL08W(116.0 keV)で単色化した放射光X線を励起光として、ZnからNdまで計18元素を定量した。④SPring-8 BL37XUにてリュウグウ試料の放射光状態分析を行った。Feの状態分析の結果は試料が炭素質コンドライトに分類されることを支持した。⑤小惑星試料表面に点在する水質変性による二次鉱物(炭酸塩など)を中心にラマン分光分析した。試料表面に水熱作用による変質が認められ、リュウグウがCI型隕石の一つの母天体であることを強く示唆するだけでなく、かつて存在した水の環境を推定する上で重要な手がかりを得た。 ⑥炭素質隕石はC型小惑星の破片と考えられている。はやぶさ2が採取したリュウグウ試料の全岩化学組成を決定した。試料は炭素質コンドライト隕石,特にCIコンドライトに含まれる物質から構成されていた。本試料は人類が手にしている天然試料の中で最も太陽大気の元素存在比を保持している試料である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①指定期日にリュウグウ試料の定量分析を実施できたので予定通り進捗したと評価する。分析後の解析作業についてもEDXRFや熱分析の結果と比較検討しながら取りまとめることができた。②おおむね予定通り進み、分析を完了し、試料を返却した。得られた分析結果については本研究課題の組織内で共有し、考察を行い、取りまとめた。2022年中に研究発表を行う予定である。③HE-SR-XRFでは、非破壊・非接触の分析でサブppmオーダーまでの微量重元素を定量することができ,さらに湿式法のICP-MSによる分析結果と良い対応が確認でき、ICP-MSで分析できなかった一部元素について貴重な組成データを提示できたことは、当初予定した以上の成果であると考える。④割り当てられた実験期日内において考え得る実験を全て行うことができ,データ収集も順調であった。XANESスペクトルの解析により、磁鉄鉱(酸化物)47%、磁硫鉄鉱などの硫化物52%、蛇紋岩(ケイ酸塩)1%という結果が得られ、順調に進捗している。今後はXAFS解析の精査を進めるとともに他元素のXAFS解析についても進めたい。⑤概ね順調に進捗した。地球宇宙化学的意義だけでなく、XRFイメージングとラマン分光分析の組み合わせにより、非破壊・非接触で、炭酸塩中の主要金属元素の定量法の確立まで進めることができた。
⑥計画通りに分析解析が進行している。それをまとめる論文も現在査読中であり,修正後受理される見込みが立っている。以上より順調に進捗していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究のゴールは「2021年の6月に実試料を分析しリュウグウの化学組成を明らかにすることであった」が、無事達成された。そこで、さらに研究を発展させ、宇宙化学試料の分析に資することを目指す以下の研究を行う。
①WDX分析技術の開発 WDXによる非加圧成型粉末試料中軽元素の分析技術の確立。リュウグウ試料は岩石系試料で微量だが、岩石系とは異なる化合物粉末で量も多い場合の分析技術の確立をめざす。セルや装置仕様、条件の検討を行う。②軽元素微小部マッピング装置の開発 リュウグウ試料の分析を通して、新しい蛍光X線(EDX)分析装置を開発中である。特長は、マイクロXRFでありながらCからの元素マッピング、定量分析が可能で、検出器はグラフェン窓SDD、エネルギー分解能133eV を持つ。③、④では、放射光実験で得られたデータについて、さらなる解析を行う。特に放射光XAFSおよびXRDのデータについて、測定した参照物質を実験室系で分析・解析しリュウグウ試料の化学状態および鉱物組成を検証する。⑤ ②のX線顕微鏡とRaman顕微鏡を組み合わせると、サンプル上の微小鉱物の同定とその分布が明らかになる。実際、リュウグウ粒子のイメージングを行い、Cの状態分析および各種鉱物の非破壊同定に成功した。最終的には新しい複合分析装置として商品化をめざしたい。⑥リュウグウの起源解明分析によって得られたデータに、比較試料として、隕石等のデータを加え、リュウグウ試料の起源について、宇宙化学的考察を進め、リュウグウの起源を解明する。
|
Research Products
(4 results)