2020 Fiscal Year Annual Research Report
Comprehending the range of the mangrove rhizosphere - An investigation of plants effects on soil nitrogen dynamics at high spatial resolution
Project/Area Number |
20H03029
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小山 里奈 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (50378832)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 智美 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (80435578)
黒岩 恵 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00761024)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | マングローブ / 嫌気性土壌 / アンモニア酸化細菌 / アンモニア酸化古細菌 / 硝酸態窒素 / 窒素循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
マングローブ林は、熱帯・亜熱帯の沿岸域に分布する森林で、潮の満ち干によって定期的に土壌が冠水する環境に成立する。海水の塩分が植物の生理に及ぼす影響に加え、定期的な冠水が土壌を低酸素状態にし、養分物質を流出させるなど、植物の生育にとって過酷な環境が形成されていると言える。そのような環境にもかかわらず、マングローブ林では高い生物多様性と生産力が保たれていることが知られている。 植物の生育を制限する要因の一つである土壌中の窒素養分条件についても、マングローブ林に特有のこのような環境条件が影響する。植物は主に土壌中の無機態窒素であるアンモニア態窒素と硝酸態窒素を利用するとされるが、土壌が貧酸素状態となることの多いマングローブ林では生成に酸素が必要な硝酸態窒素は窒素源として重視されてこなかった。しかし、これまでの研究の結果から、マングローブ生態系では植物の根の周辺で空間的・時間的に微小なスケールの植物と土壌微生物の共生的関係が形成され、その中ではマングローブ林内でも硝酸態窒素が生成され、植物に利用されていると考え、本研究課題では硝酸態窒素に着目して実験を行ってきた。 これまでに、マングローブ植物の1種であるオヒルギを対象とした室内実験を行い、実生苗の植栽によって土壌が受ける影響について調査を行ってきた。実生苗を滅菌した砂に植栽し、アンモニア態窒素のみを窒素源として定期的に与え、土壌中の無機態窒素の形態と量を測定するとともに、土壌微生物、特に硝酸態窒素生成に関わるアンモニア酸化微生物の量を調査した。結果は、マングローブ植栽が土壌微生物に影響を及ぼし、硝酸態窒素生成を促進することを示したが、その空間的範囲は極めて限られることを示した。本実験は、これまでマングローブ林の窒素循環の中で無視あるいは軽視されてきた経路の重要性を示したが、非常に微細な空間的スケールでの調査が必要であることも示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度から2年目である昨年度にかけて、根箱を用いた植栽実験を行った。対象として、マングローブ植物の1種であるオヒルギの実生を用い、滅菌した砂を培地とした栽培を行って、植栽による土壌微生物と土壌中の環境条件の変化を調査した。特に、植物の窒素源としての硝酸態窒素の生成に注目し、浸水条件下でアンモニア態窒素のみを窒素源として供給し、土壌に生じる変化を追跡した。これにより、貧酸素条件における酸素を必要とする硝酸態窒素生成、および、硝酸態窒素生成に関わる土壌微生物(アンモニア酸化細菌(AOB)・アンモニア酸化古細菌(AOA))の分布について、植物の根の成長との関係把握を試みた。 実験の結果は、マングローブ植栽が土壌微生物に影響を及ぼし、硝酸態窒素生成を促進することを示したが、その空間的範囲は極めて限られることを示した。本実験では従来手法によるサンプル採取が実施されたが、植物-微生物間の関係を把握するためにはさらに高い空間解像度が必要であることが示された。適用を計画していた微小透析法については条件の確定に至らず、本実験では適用されなかったが、引き続き適用に向けて実験を行い、今後、室内実験による適用可能性の検証、野外実験への適用を行う予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、おおよそ以下の3点からなる。 1)室内実験による植物と土壌微生物間の関係に関する調査の継続:これまでにオヒルギを用いた植栽実験を行い、根の分布と土壌微生物・土壌特性との関係を調査してきた。土壌微生物に関して、着目している硝酸態窒素の生成に関わる微生物量の把握を行った。しかし、結果は土壌中で生成された硝酸態窒素がほぼ全て消費されていることを示唆しており、この消費者には脱窒菌などの他の微生物が含まれると推定される。土壌微生物に関する分析を継続し、硝酸態窒素の消費者に関しても把握するとともに、他種のマングローブ植物についても実験を試みる。 2)微小透析法による試料採取条件の確定:植栽実験の結果は、土壌と植物の間の共生的関係は非常に微細な空間的スケールで生じていることを示した。本課題において適用を予定していた微小透析法により、そのような空間スケールでの物質の分布が明らかになることが期待される。昨年度までに本法の実験への適用には至らなかったため、今年度の実施を目指す。 3)野外調査による試料採取と分析: 室内実験で得られた成果を活用し、自然条件下で成立するマングローブ林において、微細な空間的スケールにおける養分物質の分布の把握と植物との関係を明らかにすることを目指す。 これらの結果を総括し、マングローブ林における根圏の範囲を明らかにし、その中で生じている植物-微生物間の関係を把握することで、マングローブ林における窒素循環においてこれまで重要視されてこなかった硝酸態窒素の役割を評価する。
|