2020 Fiscal Year Annual Research Report
高空間分解能MSイメージング法によるS1P組織分布の高感度可視化
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20H03374
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
三枝 大輔 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 講師 (90545237)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
可野 邦行 東北大学, 薬学研究科, 助教 (50636404)
松本 洋太郎 東北大学, 薬学研究科, 講師 (90420041)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | S1P / MALDI / MSイメージング / 質量分析計 / スフィンゴ脂質 |
Outline of Annual Research Achievements |
生理活性スフィンゴ脂質であるスフィンゴシン一リン酸 (S1P) は、免疫疾患、がんや動脈硬化の発症に関連することが示唆されており、S1P シグナル伝達系に発現する分子が創薬標的になり得ると考えられている。しかしながら、S1P は細胞局所にて作用することが示されているにも関わらず、現在までの解析手法では、組織分布を直接検出することが困難であった。 本研究の目的は、S1Pを含むスフィンゴ脂質を一細胞以下のレベルで可視化する質量分析イメージング(MSイメージング)法を開発し、病態モデル動物におけるS1Pシグナル伝達機構の変化がもたらすS1Pとスフィンゴ脂質の組織分布変化を捉え、創薬標的を明らかにすることである。 令和2年度は、共同研究者である可野邦行博士のグループと協力し、S1Pのリン酸基をPhostagで特異的に誘導体化する手法開発およびS1Pリアーゼノックアウトマウス解析の成果について論文を発表した(Iwama et al., Anal Chem. 2021, 93(8), 3867)。 また、S1P特異的な誘導体化試薬の開発を目指し、Phostag類縁構造体について複数種有機合成することに成功した。さらには、高空間分解能MSイメージング法に供する組織切片作成について、鶴見大学の川本博士との協力により、更にマトリックスレーザー脱離イオン化法(MALDI)-MSイメージング法に適した(高感度化)導電性粘着フィルムについて評価を実施すると共に、ゼブラフィッシュやマウス全身組織切片を高精度に取得できる検体保管条件を明らかにした。 今後は、引き続きS1P特異的な誘導体化試薬の有機合成および高空間分解能MSイメージング法の開発に取り組む。また、技術開発に並行し、これまでに確立したMALDI-MSイメージング法を、既に得られた病態モデル動物や疾患検体に応用し、S1Pの機能解析を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、MSイメージング法によるS1Pの組織分布解析は不可能であったことから、観察された組織分布の正確性を示す必要があった。そこで我々は、レーザーマイクロダイセクションで脳組織各部位を採取し、UHPLC-MS/MSによるS1Pの定量を実施することに加え、S1Pの代謝酵素の一種であるS1Pリアーゼのノックアウトマウスから得られた脳組織におけるS1PのMSイメージング分析を実施することにより、開発した手法によって得られたS1P分布が正確であることを示した。また、本研究による成果は、Analytical Chemistry誌に掲載された。従って、MSイメージング法によるS1Pの高感度化技術開発および病態モデル動物解析については、予定よりも先行して進めることができている。 さらに我々は、S1P特異的に高感度に誘導体化できる試薬を合成すべく、初めに亜鉛からPhostagの基本構造の合成を実施し、さらにPhostag類縁構造体を10種程度有機合成に成功した。現在は試薬の高純度精製を進めているが、MALDI-MSによる分析の結果、現在までに感度に関係する修飾位置や置換基を明らかにした。従って、新規S1P誘導体化試薬の合成については、概ね予定通り進めることができている。 一方、空間分解能2 μm以下を目指したMSイメージング法の開発については、組織切片作成する際の前処理技術について、新たな導電性粘着フィルムの開発と切片を精密に取得する条件を確立し、最大5~8 μm程度までは達成できているが、未だ2 μmには到達していないことから進捗が遅れている。従って、今後は高空間分解能を目指した技術開発は、新たな技術導入を考案することで、加速的に進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
我々は、これまでにMSイメージング法による組織切片上に含まれるS1Pの高感度検出に関する技術開発を進め、少なくとも10~20 μmレベルの空間分解能であれば、日常的にS1Pの分布解析を実施することができるようになった。一方で、2 μm以下の空間分解能でのMSイメージング法の開発については成功しておらず、研究進捗の障壁となっている。しかしながら、既に数種類の病態モデル動物あるいは疾患検体を入手可能な状況であり、10~20 μmレベルの空間分解能によるMSイメージング法を応用した場合でも、ある程度S1Pの機能解析を進めることが可能である。従って、令和3年度は、2 μm以下の空間分解能によるMSイメージング法の技術開発と並行し、各種病態モデル動物あるいは疾患検体に含まれるS1P分布解析も進める。 また、Phostag類縁構造体の有機合成については、置換基の極性が異なる試薬を高純度に合成することにより、S1P特異的に高感度MSイメージング分析を可能とする構造を見出す。さらに、合成した試薬類は、他のリン酸基を有する化合物のMALDI-MS分析を実施する際のスクリーニングに実用できるライブラリー化を目指す。 令和3年度は、特にMSイメージング法の高空間分解能化を目指すが、近年新たに開発されつつある投影型のMALDI-MS装置が本研究に好適である可能性が高いと考えており、開発者との共同研究による新たな成果の創出が期待でき、大きな技術進捗が見込める可能性が高い。
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Research Products
(6 results)