2020 Fiscal Year Annual Research Report
老化によるストレスレジリエンスの破綻とオリゴデンドロサイト新生のニッチ
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20H04105
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
神野 尚三 九州大学, 医学研究院, 教授 (10325524)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古江 秀昌 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (20304884)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 海馬 / オリゴデンドロサイト / パルブアルブミン / ミエリン / うつ病 / 心的外傷後ストレス障害 (PTSD) |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、うつ病の生物学的基盤に関する研究では、オリゴデンドロサイト新生に多くの注目が集まっている。本研究で我々は、うつ病を併発することが多い、心的外傷後ストレス障害 (PTSD) のモデルを用いて、オリゴデンドロサイト新生に着目した研究に取り組んだ。PTSDとは、命が危険にさらされたり、人としての尊厳が損なわれたりする経験などが原因となる精神疾患である。恐怖記憶の汎化を特徴とし、抑うつ感、無力感などに支配され、つらい記憶が突然鮮明によみがえる「フラッシュバック」が認められる。我々は、恐怖条件づけと電気ショックを組み合わせて、恐怖記憶の汎化を確認し、PTSDモデルマウスを作出した。海馬の組織化学的な解析の結果、PTSDモデルマウス海馬では、オリゴデンドロサイトとオリゴデンドロサイト前駆細胞の空間分布密度が低下していることを見出した。またRT-PCRでは、PTSDモデルの海馬でオリゴデンドロサイト前駆細胞やミエリンに関連する遺伝子の発現低下が認められた。興味深いことに、海馬のミエリンのトレースでは、パルブアルブミンニューロンの軸索のミエリン化率がPTSDモデルで低下する一方、非パルブアルブミンニューロンの軸索のミエリン化率に変化は認められなかった。 また、老化によるストレスレジリエンスの低下のモデルとして、慢性拘束ストレスを用いる実験にも取り組んだ。予備的な結果であるが、21日間の慢性拘束ストレスでは、加齢マウスでは高架式十字迷路で不安関連行動が増加するが、若齢マウスでは変化が起こらない、という結果を得た。現在も、老化によるストレスレジリエンスの低下とオリゴデンドロサイト新生の連関について、検討を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、恐怖条件づけと電気ショックを用いるPTSDマウスモデルの作出に成功し、海馬におけるオリゴデンドロサイト前駆細胞とオリゴデンドロサイト、ミエリンの組織化学的変化を見出している。また、予備的ではあるが、パーキンソン病の治療薬であるベンゾトロピンを投与したところ、PTSDモデルマウスにおける症状の改善も見出している。 ストレスレジリエンスの加齢変化についても、慢性拘束ストレスを用いた予備検討を行っており、加齢マウスのみでストレス感受性を示すモデルの作出に成功するなど、概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
実験1:本研究で確立したPTSDモデルについて、加齢によるストレスレジリエンスの変化を明らかにする。そのために、若齢と加齢のC57BL/6Jマウスを用いて、ストレス強度の検討を行い、若齢ではPTSD様の症状を示さず、加齢群のみで症状を示すモデルを確立する。 実験2:(1) ストレスレジリエンスの加齢変化を示すPTSDモデルマウスを用いて、オリゴデンドロサイト前駆細胞やオリゴデンドロサイト、ミエリン、ランビエ絞輪などを同定し、オリゴデンドロサイト新生の変化を組織学的に評価する。(2) オリゴデンドロサイト前駆細胞と未成熟オリゴデンドロサイトをMACSにより分取し、オリゴデンドロサイト、加齢、ストレスに関連する遺伝子群の発現変動を解析する。(3) コンドロイチン硫酸やポリシアル酸のELISAによる発現解析と、コンドロイチン硫酸合成酵素とポリシアル酸合成酵素のRT-PCRやWestern blotによる発現解析を行う。 実験3:ミエリンは海馬広域神経回路の活動性に影響を与えている。このため、分担研究者である古江秀昌教授 (兵庫医科大学) の協力を得て、内側中隔核や嗅内野、扁桃体、海馬などからフィールド電位と個々のニューロンの発火活動を記録し、PTSDの病態と加齢に伴う変化を解析する。 実験4:ストレスレジリエンスの加齢変化のモデルとして慢性拘束ストレスを使用し、抗うつ薬の投与やモノアミン系投射路のDREADDによる活性化を行い、オリゴデンドロサイト新生の形態学的、分子生物学的解析と行動学的評価を開始する。
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Research Products
(10 results)