2021 Fiscal Year Annual Research Report
A sudy of smellscape as basic concept of tourism planning
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20H04443
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
橋本 俊哉 立教大学, 観光学部, 教授 (50277737)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
海津 ゆりえ 文教大学, 国際学部, 教授 (20453441)
岩崎 陽子 嵯峨美術短期大学, その他部局等, 准教授 (70424992)
真板 昭夫 嵯峨美術大学, 芸術学部, 名誉教授 (80340537)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スメルスケープ / 「嗅覚的観光資源」 / 匂い環境 / 香りのカレンダー / 南大東島 / 西表島 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,「五感の体験」という観光が本来有する力を取り戻すべく,五感の中でもとくに記憶や感情と密接に結びついている「嗅覚」が果たす役割に着目し,嗅覚による環境体験を重視する「スメルスケープ」の観点から,観光地空間整備に向けたソフト面の新たな計画手法を抽出することを目的としている。2021年度は,本研究の目的を遂行するために,嗅覚に訴える資源を有する地域の事例分析,嗅覚を活用したアートの制作とその効果の検証,さらには匂い環境の特徴を把握するための現地調査を行った。 事例分析では,登別市(北海道),藤沢市(神奈川県),輪島市(石川県)等において踏査を行い,「嗅覚的観光資源」の類型化や特徴分析を行い,今後の活用可能性についての検討を行った。 嗅覚を活用した展覧会は,本年度は聴覚と組み合わせた企画とし,2021年6月に京都市で開催した。この展覧会に参加した鑑賞者が,いかなる記憶が呼び起こされたかについて意識調査を行い,その回答内容を分析することで,「メンタルタイムトラベル」の可能性を検討した。これに関連した活動として,石垣島(沖縄県)で現地調査を行い,島の香りを使ったアート作品Remini-scentを制作する試みを行った。 匂い環境の特徴を把握するための現地調査は,年間を通して豊かな匂い環境が維持されていると考えられる「生産文化圏」の調査対象地として,沖縄県の南大東島ならびに西表島を選定した。 南大東島では農業・漁業関係者,婦人会等,西表島では加えて民宿経営者やツアーガイド,染色家等,両島住民の協力を得て,匂い資源の可視化を目的とした「香りのカレンダー」の制作に向けた調査を実施した。これらは,住民が認識する地域の匂いの特徴を可視化し,観光活用することをめざした,これまでの観光研究にはみられない特色ある試みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では,初年度である2020年度に,匂いを活用したまちづくりや観光施設を展開している先進事例について,現地調査をもとに具体的な展開内容,効果等を分析する予定であったが,新型コロナウイルス感染症の影響で調査枠組の変更を余儀なくされたため,匂いと観光に関する理論研究ならびに,フランスの研究者の協力を得て,嗅覚に視覚を組み合わせた展示による展覧会を企画・開催し,参加した鑑賞者に対して実施した意識調査の分析に注力した。21年度は新型コロナの影響を見計らいつつ現地調査を行い,また展覧会では,嗅覚と聴覚を組み合わせた展覧会を企画し,参加した鑑賞者に対して,いかなる記憶が呼び起こされたかについて意識調査を実施し,回答内容を分析した。 スメルスケープは自然環境やそこでの生活文化が維持されることなしに維持されないため,自然環境と伝統的な生業や生活のシステムが維持されている「生産文化圏」は,匂い環境の面でも資源に恵まれているものと考えられる。こうした特徴を有し,かつ近年観光面でも注目されている調査対象地を選定したものの,候補地の1か所は高齢者の多い集落のため調査の実施が困難と判断したため,当初から候補としていた南大東島に加え,新たに同じ沖縄県の西表島を調査対象地として選定した。前者は製糖工場からの香りが島の匂い環境の重要な構成要素となり,八丈島からの移民と沖縄文化が統合した独特の文化を有する島で,後者は四季それぞれに移り変わる豊かな自然資源とともに生活文化を築いてきた島である。2つの異なるタイプの島の住民を対象として匂い環境を把握する調査を実施しながら結果の分析を進め,成果を可視化する方法の検討を進めている。 以上のように,当初の調査内容の修正を余儀なくされたことで「(3)やや遅れている」と判断した。現在は新たな調査の方向性を定めたうえで,当初の目的を遂行すべく,研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
嗅覚という現地で感じることが欠かせない感覚を対象とした研究のため,これまで,新型コロナウイルス感染症の影響で現地調査が実施できない中で,どのような調査が進められるか,プロジェクトメンバーと定期的に協議しながら調査内容の検討を進めてきた。その中で,「匂い空間は重層化した構造をなしており,それを住民がどう認識するか」をまず把握することが重要という視点にたって調査を進めることで合意し,住民への聞き取り調査をもとに,匂いの源となる資源を,季節ごと・距離帯ごとに分類・整理した「香りのカレンダー」として制作する方向性で進めている。住民と観光者の匂い体験は異なることが予想されるので,その相違をふまえつつ,成果を双方が活用しうるものとして可視化する。 22年度は,21年度に調査を実施した南大東島・西表島(ともに沖縄県)で聞き取り調査に参加してもらった住民と密に連絡をとりつつ結果の分析・検証作業を進め,両島において追加調査を実施することで,「香りのカレンダー」の制作を進めてゆく。なお,21年度に調査を進める過程において,匂いデータを定量的に分析する経験を有する新たな調査チームと出会えたことで,追加調査の実施に当たっては,「香りのカレンダー」の作成に加えて,香りの重層構造を定量的データとして測定することも試みる。これらにより,質的・量的の両側面から匂いデータを可視化する取り組みを進めてゆく予定である。
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