2020 Fiscal Year Annual Research Report
人称と共同体――19・20世紀フランス哲学における共同体論
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20J00020
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
伊藤 潤一郎 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | ジャン=リュック・ナンシー / スピリチュアリスム / 特異性 / 共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、年度当初からのコロナ禍の影響で、予定していた研究計画に若干の変更が生じた。 計画では、フランス・スピリチュアリスムという呼称で括られる思想潮流における、非人称的なものと共同体の問題を研究する予定であったが、本研究の研究対象の一人である現代フランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシーがコロナ禍を機に積極的に議論を展開し始めたため、今年度はその動向を追い、そこで「精神的なもの(スピリチュアルなもの)」がいかなる役割を果たしているかを探ることとした。 まず、「ウイルス性の例外化」と「あまりに人間的なウイルス」というナンシーの論考を訳出し(『現代思想』第48巻第7号、2020年5月)、これらの翻訳によって、ナンシーが新型コロナウイルスのパンデミックという状況をとおして、新たな共同の生を構想していることを確認した。また、それと同時にこれら二つの論考以降のナンシーの議論を追うことによって、ナンシーが徐々に「精神」に大きな役割を与えるようになっていることを確認した。 上記の翻訳の成果とその後の議論の読解をもとに、ナンシーが自己の「内奥」としての「精神」へと探究を深めていることを明らかにし、それが誰にも所有されえない「特異性」として語られ、思考がこうした「特異性」と不可分な関係にあることを、2021年3月のシンポジウムでの口頭発表「眠りとボーっとすること――ナンシーにおける思考とリズム」において明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍の影響によって、予定していた研究計画に若干の変更が生じてはいるが、今年度は当初の研究計画において最終年度に予定していたジャン=リュック・ナンシーに関する研究を先取りしたかたちとなっている。そのため、研究計画の全体からみれば、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はキリスト教哲学の共同体論における〈人称/非人称〉に関する研究を進めていく。具体的には、ジャック・マリタンの『ベルクソンからトマス・アクィナスへ』やエマニュエル・ムーニエの遺稿集などを精査する。当初今年度に予定していた計画については、最終年度に重点的に進めていく予定である。
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Research Products
(7 results)