2020 Fiscal Year Annual Research Report
メルロ=ポンティを手がかりとした現代における哲学者のエートスの探究
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20J00448
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐野 泰之 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | メルロ=ポンティ / 現象学 / 文学 / 生き方 / フェミニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は新型コロナウイルス感染症の影響で資料収集や研究発表の手段が大幅に制約されたが、そのような中でもオンライン上の諸手段を用いて研究を進め、一定の成果を挙げることができた。それらの成果は以下の三つに整理できる。 1) まず、メルロ=ポンティの文学論について、東京大学の『仏語仏文学紀要』に掲載されたフランス語の論考の中で、メルロ=ポンティ独自の「参加(アンガジュマン)」についての考え方をサルトルと対比しつつ明確化し、今後の研究の土台となる基本的な着想を定式化することができた。 2) 次に、『現象学年報』に掲載された論文において、哲学を一種独特の「生き方」とみなすピエール・アドの議論を踏まえてメルロ=ポンティの哲学を再解釈することで、メルロ=ポンティの哲学もまた単なる学説ではなく独特の「生き方」として理解すべきであるという、本研究の核となる見解を素描した。 3) 最後に、日本現象学会のワークショップ「『身体を引き受ける』を引き受ける――トランスジェンダー現象学の展開」に登壇し、フェミニスト現象学やトランスジェンダー現象学について考察する機会を得たことで、メルロ=ポンティの哲学の今日的意義を考えるにあたって、フェミニスト現象学やトランスジェンダー現象学の知見を参照することが有益であるという着想を得た。これらの分野においては、経験の現象学的記述という作業がいかにして現行の制度や慣習に対する批判になりうるかという問いに答えるために、現象学的アプローチと、フーコーの系譜学に代表されるポスト構造主義的アプローチの方法論的架橋が試みられている。これらの議論は、メルロ=ポンティにおける「書く」という行為をフーコー的な「パレーシア」の一種として捉えることを目指す本研究にとっても示唆するところが大きいと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画に従って、メルロ=ポンティの文学論や、メルロ=ポンティの哲学が有する「生き方」としての側面について今後の研究の土台となる議論を論文としてまとめることができた。そのうち1本はフランス語の論文であり、研究成果の国際的発信という点でも重要な業績となった。 このように当初の研究計画を着実に実行できただけでなく、フェミニスト現象学やトランスジェンダー現象学に関するサーヴェイを通して、メルロ=ポンティの哲学の今日的意義の定式化という本研究の最終的な目標を実現するための、当初の研究計画にはなかった新しいアプローチを着想することができた。そのため、本年度の研究は当初の計画以上に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画に従って、メルロ=ポンティの文学論や政治論についての考察をさらに深めていくとともに、今年度に着想した新しいアプローチであるフェミニスト現象学の方法論についての調査と考察を進め、経験を現象学的に記述することの実践的意義を明らかにすることで、メルロ=ポンティの文学論の今日的意義を明らかにすることを目指す。
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Research Products
(3 results)