2021 Fiscal Year Research-status Report
The Virtues of Courage and Temperance in 13th century Europe
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20K00005
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
周藤 多紀 京都大学, 文学研究科, 准教授 (50571733)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 註解 / ニコマコス倫理学 / モドゥス / 中世哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、十三世紀後半にオックスフォード大学学芸学部で執筆されたディンスデールのヨハネスの『倫理学問題集(注解)』の校訂と研究を通して、十三世紀後半の哲学的倫理学における勇気や節制の徳概念を明らかにすることにある。本年度は、同書第三巻の勇気と節制について論じた部分(第三十三問から第五十二問)の校訂版を作成し、第三巻全体の校訂版作成作業を終えた。同書をトマス・アクィナスの『倫理学註解』と『神学大全』、アルベルトゥス・マグヌスやパリ大学学芸学部教師の『倫理学註解』と比較し、その特徴を明らかにした。そして、考察の成果を英文でまとめ、校訂版の序文とした。 刊行されているパリ大学学芸学部教師の『倫理学註解』第三巻を読解するだけではなく、さらなる比較研究の準備として、Gallica で提供されている画像を用いて、未公刊のパリ大学学芸学部教師の『倫理学註解』で論じられている問題(論題)を書写した。 徳の分類や特徴づけにあたって、ディンスデールのヨハネスらは「モドゥス・様態(modus)」というタームを用いている。ディンスデールのヨハネスの著作のなかには「モドゥス」の用例は少ないが、ヨハネスに大きな影響を与えたトマス・アクィナスは様々な場面で「モドゥス」を用いており、「徳のモドゥス」という表現もある。トマスの「徳のモドゥス」の用例を分析し、その哲学的含意と重要性について中世哲学会大会で究発表を行った。また「モドゥス」概念の歴史的源泉をさぐり、アウグスティヌスとトマスの「モドゥス」の存在論的側面について論文を執筆した。 加えて、中世哲学についての最適の入門書であると考えられるJohn Marenbon のMedieval Philosophy: A Very Short Introduction の全訳及び訳注、解説、索引を完成させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、出張(対面)ではなくzoom による研究会や学会への参加となったため、研究時間を予定していたよりも多くとることができた。その結果、前年度に引き続き、予定したよりも校訂版の作成作業をすすめることができ、最終年度(2002年度)に完成を見込んでいた主要なラテン語テクスト(ディンスデールのヨハネスの『倫理学問題集』)第3巻の校訂版作成作業を終えることができた。また、関連研究として、トマス・アクィナスの「モドゥス」についての考察を進めて、研究論文を執筆することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ディンスデールのヨハネスの『倫理学問題集(註解)』第3巻の校訂版と序文をまとめた報告書を作成・送付し、内外の『倫理学註解』研究者との意見交換をはかることで、研究をさらに進展させる。 ディンスデールのヨハネスの『倫理学問題集(註解)』第4巻の校訂版作成及び関連研究に着手する。『倫理学問題集』4巻の内容は、勇気や節制に関連する諸徳についてであるので、研究課題である勇気や節制概念についての考察をより深めることが可能になる。 海外渡航が可能であれば、パリのフランス国立図書館で、ディンスデールのヨハネスの『倫理学問題集』と同時期に書かれた『倫理学問題集』の写本を閲覧する。また国際中世哲学会で、海外の研究者9名と計画している『倫理学註解』の特別セッションに参加し、ディンスデールのヨハネスの『倫理学註解』の革新性について発表を行う。海外渡航が困難であれば、写本画像(すでに入手、あるいはオンラインで閲覧可能)をもとに同時代の『倫理学問題集』の内容について、さらに理解を深める。 また 2022年春~夏の発刊が予定されている13-14世紀の『倫理学註解』(うち一つはディンスデールのヨハネスの註解よりも前の時期のものであり、もう一つは後の時期のものである)を入手して読解し、ディンスデールのヨハネスの註解の特徴や影響関係について、さらに考察を深める。 さらに、本年度本格的に着手したトマスのモドゥス研究も引き続きすすめる予定である。
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Causes of Carryover |
計画していたアメリカでの学会参加を見送り、国内学会もオンラインで開催されため、旅費を一切使用しなかった。代わりに研究室でZoomを用いてオンラインで学会に参加するためにパソコンを新規購入することも考えたが、マイクやスピーカー、ウェブカメラを購入することで現在のパソコンを使用可能と判断し、購入に到らなかった。 未使用額については、ディンスデールのヨハネスの『倫理学註解』第4巻の校訂版作成時のラテン語校正の謝金として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)