2021 Fiscal Year Research-status Report
規範的非難現象を基にした非難の哲学・倫理学理論の評価基盤の構築とその評価
Project/Area Number |
20K00031
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
佐々木 拓 金沢大学, 人間科学系, 准教授 (70723386)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 非難 / 依存症の倫理学 / ゆるし / スポーツ倫理学 / 審判 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、非難の哲学理論が共通して説明すべき非難現象の様態・種類・文脈を規範性の観点から特定し、反応的感情に基づく非難の説明と関係性に基づく非難の説明との論争に議論の方向性を与えることである。これに関して、令和3年度では非難の理論の評価基盤となる事象群を暫定的に特定することが課題として設定された。具体的には、(1) 前年度に引き続き文献調査を行う、(2) 2年度分の文献調査結果をもとに、非難の評価基盤となる非難現象群を特定する 、(3) 非難の評価基盤の妥当性を評価するために、非難の哲学・倫理学をテーマとした国際研究会を開催する、という3つの計画が予定されていたが、これらはほぼ予定通り遂行された。 以上の研究で明らかになったのは、スポーツ倫理学や依存症の倫理学といった応用倫理学の文脈では、非難には一定の実践的目的が設定されているという点であり、またこの観点から、単純な(関係性を踏まえない)反応的感情に基づく非難の説明ではこの目的を十分に達成できないという点である。感情表現を伴う非難は、それを通して毀損される自身の(および他者と共有された)価値観の表明という要素を中心に据えるが、この要素は上記の応用倫理学的文脈では本質的ではなく、スポーツ実践や依存症者の治療といった具体的な文脈では、よりよい実践に貢献することが非難の機能として求められる。また、その際には客観的に共有された価値基準というよりも、個人間で成立する個別的な関係規範が重要となる。これらの点を踏まえるなら、非難の説明については関係性説を基礎とする方が適当であることが結論される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献調査および国際研究会の開催によって、とりわけ応用倫理学の文脈において非難が備えるべき規範性が明らかになった。その一方で、文献調査により「ゆるし(許し/赦し)」と非難との関係の複雑さが明らかになったために、「ゆるし」の領域において非難がどのような役割を果たすべきかの検討が十分に行われなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
本課題の最終年度である令和4年度は、研究の総括として、依存症と非難をテーマとした国際研究会を開催し、研究成果を発表することを目標としている。そのために、最新の関連文献をフォローしつつ、これまでの研究成果をまとめ、英語論文を執筆することを課題とする。 また、研究会の成果を報告書等にまとめ、公表することを予定している。
|
Causes of Carryover |
対面での国際研究会および研究ミーティングの開催を予定していたが、コロナ禍のため断念された。代替措置として国際オンライン研究会を開催したが、旅費等の計上が不要であったため残額が生じた。また、発表が予定されていた学会・研究会がオンラインで開催されたため、これについても旅費の未使用分が残額として生じた。 今年度の研究会の開催をオンライン化し最小限の支出でおさえた分は、次年度の対面での国際研究会の内容をより充実させるために使用する。
|