2020 Fiscal Year Research-status Report
人新世とゲノム編集の時代におけるブクチンの自由概念とヒエラルキー批判の再検討
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20K00036
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
熊坂 元大 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 准教授 (60713518)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 環境倫理学 / Murray Bookchin / 徳倫理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は新型コロナウィルスの影響もあり、当初予定していた出張を伴う調査活動を実施することができなかった。そのため、文献収集と収集した資料の検討を主な研究活動として計画を組みなおした。 本研究の中心的題材であるマレイ・ブクチンの思想は、グリーン・アナキズムの嚆矢として位置付けられることが多い。しかし、調査の結果、ブクチンのアナキズムとの決別は、彼が公式に表明するかなり以前に明らかになっていたことが明らかとなった。 ブクチンの思想を、現実的な環境倫理思想として今日改めて積極的に解釈するにあたって障害になりうると思われたアナキズム的要素は、上記の背景を踏まえると、彼の弁証法的自然主義をアナキズム的側面から(ある程度は)切り離して組み立てなおすことも可能であると確認するに至った。ただし、彼がアナキズムとは異なるものとして打ち出そうとしたリバタリアン的地域自治主義もまた、今日の政治社会の状況を鑑みるに実現は困難である。この自治主義をどのように現実的なものへと解釈しなおすか、あるいは政治の実践とはひとまず切り離し、環境哲学としてブクチンの思想を解釈するのかを考える必要がある。 ブクチンの弁証法的自然主義を積極的に解釈する方法として、現時点の仮説は、「自然に目的はなくとも自由の拡大という傾向性を見出す」という彼の基本方針を環境徳として位置付け、自然の所与性を共通善として位置付けるというものである。この仮説の補強・検証のために、環境徳倫理学および徳倫理学一般についての研究にも着手している。その一環として、ロナルド・サンドラーの著作を環境徳倫理学の入門書として翻訳出版する運びとなった。翻訳作業を通じてサンドラーの主張を批判的に検討し、ゲノム編集による自然の改変が受容されつつある現在、自然概念と自然保護を現代社会の規範システムにどのように位置づけるかという課題に取り組みはじめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスによる研究計画の大幅な変更があった。とはいえ、当初予定していた課題の一つである、ブクチン思想をアナキズムから切り離して解釈する可能性の検討は達成できているように思われる。 また、本研究に関連する書籍の翻訳に時間を費やしたものの、研究の積極的展開という面では極めて有意義なことであると考えている。 以上の点を総合的に考慮し、本研究の進捗状況は「やや遅れている」に該当すると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、ブクチン思想と環境徳倫理学の検討に取り組む。 2021年度中に、研究成果を論文として公表するとともに、現在の翻訳プロジェクトを終了する予定である。 なお、当初は2021年度に国外での調査・発表を予定していたが、現時点のコロナウィルスの広がりを考えると、この予定は変更する必要があると思われる。 この点については、オンラインでの国際会議への参加などを検討している。
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Causes of Carryover |
コロナウィルスによる移動制限もあり、当初の科研費使用計画とのあいだにギャップが生じた。 現時点では本年度も国外への移動などは難しいと思われるため、念のため一定期間、ワクチン接種や感染拡大の状況を注視したのち、高額文献などを購入することで本研究の遂行に役立てる予定である。
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Research Products
(1 results)