2020 Fiscal Year Research-status Report
A Philosophy of Discrimination and Hate Specch
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20K00041
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
堀田 義太郎 東京理科大学, 教養教育研究院, 准教授 (70469097)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 差別 / ヘイトスピーチ / 哲学 / 社会集団 / 従属 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は当初予定通り、差別の哲学の主要諸議論の検討を行った。ただし成果としては一般読者向けの書籍への解説論文と文献紹介にとどまっている。 第一に、ソフィア・モローの2020年刊行著書の検討を行った。モローの議論は既存の差別の哲学にない理論的枠組みとして「従属への因果的寄与」という側面を重視しており、これは本研究課題とその問題意識・着想と多くの部分で重なり、また議論としても先取りしている。この議論の検討を行い、社会的意味説との接続を試みた(成果となる論文二本の刊行は2021年度7月および8月の予定)。 第二に、ヘイトスピーチおよび差別語に関する言語哲学の諸議論の検討として、推論役割意味論に基づくヘイトスピーチ/差別語研究の枠組みとともに、近年展開されている「社会集団の存在論」および関連諸議論を検討した。特に後者が、差別の理論にとって補助線として有効・有用であることを再確認した。また、英語圏におけるヘイトスピーチ研究の古典とされる著書、Words That Wound(『傷つける言葉』(仮))の翻訳に分担参加し、特にいわゆる「ブラウン判決」の社会的意味説にとっての意義を再確認した。 第三に、ベンジャミン・アイデルソンの研究(2015年刊行著書)の内在的検討のための予備作業を、書評論文で行った。アイデルソンは、マイノリティを対象とした差別が、特定の社会的・歴史的な文脈で特定の意味を帯びるという点を、「害」の概念がカバーする範囲を拡張して展開しているが、この議論にはいくつかの点で問題点が残されることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は学会および研究会での研究進捗についての相互レビューの機会を持つことができなかったが、他方文献の検討については概ね順調に進展した。 とくに社会的意味説を、既存の差別の哲学の主要諸議論との関係で位置づけ、その意義を明らかにするという目的については、概ね当初の予定通りに進んでいる。 また、共著書として差別の哲学の入門書を執筆し、あらためて諸議論の枠組みを一般向けに整理する機会を得たことで、社会的意味説も含めた既存諸議論の限界と意義を再確認することができた。また差別の哲学以外の分野への架橋という点でも、基本的な見通しを立てることができており、今後、具体的な作業を行い理論構築に着手する準備が整えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の計画は、前半で主にヘイトスピーチ・差別語に関する言語行為論および推論役割意味論等による諸議論の整理と、それらの差別の理論に対する寄与部分を確定することであり、現在、共同翻訳中のMcGowan(2019)の議論なども含めて、概ねその目途は立っている。 また、社会集団の存在論の諸議論が差別論にとっても重要な知見を提示または示唆していることから、これらの議論を新たに補助線として取り込むことで理論的な基盤を補強する予定である。 本研究は、基本的に申請者個人で行う文献研究であり、推進方策として特筆すべき方法はないため、20年度に得た成果の上に計画通り推進する予定である。ただし考えられる課題としては、21年度も研究会への参加などが一定程度制約されることが予想されるため、研究進捗状況及び内容のチェック等については少しの遅れが生じる可能性である。
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Causes of Carryover |
20年度は本研究課題申請当初に予測不可能な感染症の拡大により、予定していた学会および研究会参加がすべてキャンセルまたはオンラインへと変更となり、旅費として計上していた予算が一切不要となった。 21年度も同様の状況が予想されるが、旅費として計上していた予算の一部を英語論文のプルーフリーディングへの費用等として差し替えて使用する計画を立てている。
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Research Products
(2 results)