2020 Fiscal Year Research-status Report
Anti-naturalism of value philosophy in the early twentieth century-For reconsideration of contemporary value theory
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20K00119
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Research Institution | Okayama Shoka University |
Principal Investigator |
九鬼 一人 岡山商科大学, 法学部, 教授 (30299169)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リッカート / 現代価値論 / 認知主義 / 情動 / 新カント学派 / 帰結主義/非帰結主義 / 反省的判断力 / 生の哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年12月『岡山商大論叢』に「しなやかな合理性から認知主義へ」を発表。ヌスバウム・プリンツ等、現代価値論との対照において、実践的視角に開かれたリッカートの非自然主義的認知主義を称揚した。論中、ドレツキの再較正と解釈学的「再解釈」の並行性を論じ、認知主義をとっても解釈学的な要素はとり込めることを示した。そして価値論の要件として価値の妥当性を、客観から主観へと適合させて基礎づけるべきことを説いた。ただプリンツの道徳心理学に言及したさい、彼を情緒主義と見なしたのはいささか短慮であった。その後の研究での再認識をいずれ発表するつもりである。 2021年3月『岡山商大論叢』に「反省的価値の体系」を発表。リッカート認識論における可謬性・宗教性・反省性を論じ、カント「判断力批判」に対照するかたちで、その反省的価値体系に言及した。そして価値の生動性という観点から、リッカート価値体系の非完結性を強調し、(オルトの示唆にしたがい)ハイデッガーから引きついだコンティンゲンツの問題系に注目した。かつ、その歴史的に開かれた体系について、生の哲学的側面を積極的に評価した。 2020年、8月23日、カント研究会において、「非帰結主義的/帰結主義的に色づけされていない二重過程理論」をzoomにて口頭発表。発表原稿をresearchmapにアップロードした。機会集合の変化に伴い文脈が変更されるから、価値判断は「再解釈」された記述に依拠すべきであるという論点を、(厚生経済学の知見を参考にしつつ)提示した。その見地に立つなら、道徳心理学の二重過程理論における反省に、非帰結主義的な要素を認める必要があると論じた。ただし選好の独立性に関連して、アマルティア・センの『合理性と自由』第3・4章との対質の必要性が残っている。 なおフッサール・ディルタイに関連したシンポジウムの原稿を執筆したものの、コロナで開催できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自然主義的現代価値論との対決において、ラスク・ディルタイ・フッサールで補ったリッカートの反自然主義的価値論を称揚するのが本研究の目的である。 第一に実践性に鍛え直された、その認知主義について、第一論文で基本的構図を提出することができた。すなわち価値論における妥当性は、客観から主観へという適合の向きと一体化しており、認知主義という基本方向の理路を確かめることができた。ただしその関連で論ずべきラスク哲学に、見るべき先行研究がなく、ラスクとの対質が当該論文で不十分だった憾みがある。現代現象学や適合態度アプローチも視野に収めて、認知主義に関する思索を深める余地を残している。 第二にその反省性・多元性は、ディルタイや『判断力批判』との関連させて、第二論文で論じえた。従来、リッカート哲学の完結性への志向は、生の哲学との対比において学的硬直性を示すものと受けとられがちであった。しかし本研究では、リッカート価値体系の非完結性につらなる形而前学的発想(異質的連続・意味の第三領域)・コンティンゲンツに注目することで、生の哲学的な豊かな可能性を示しえた。 またカント研究会発表の分析哲学的考察を通じて、解釈学における「再解釈」の重要性を再認識するようになった。認知主義が硬直した客観主義・知性主義に陥らないためには、価値解釈は「再解釈」に向けて開かれているべきであり、「再解釈」の全体論的決定という見方を保持しなくてはなるまい。フッサールの知覚モデルの価値論を批判しながら(コロナのために未発表だが、すでに執筆済み)、新カント学派的価値概念説の改鋳を模索している。そのさいディルタイ的「再解釈」を織り込みつつ、リッカートの客観主義・知性主義を止揚する方向性を探りたい。相対主義批判を視野に入れつつ、情動重視の自然主義的現代価値論にあらがいながら、非帰結主義的/多元主義的に反自然主義的価値論の可能性を追求してゆく。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度発表を予定しているのは以下の五論文である。 まず日本ディルタイ協会関西大会口頭発表(zoom発表)では、「ディルタイの解釈学的価値論」と題し、ディルタイ価値論における情動・イデアリテート・生をめぐる両義性を押さえたうえで、知覚説の離脱・概念説の止揚・概念説の射程を論じる。その文脈でリッカートの価値概念説と比較し、フッサール・ヘーゲルの理念との関連でディルタイ価値論の統一的解釈を探る。 次に岡山大学での瀬戸内哲学研究会(zoom発表?)にて「初期現象学価値論と共範疇性」を発表する予定である。『論研』での共範疇性のアイデアを価値語に適用して、ヴェイリネンの分析も交えながら、価値判断が対照クラスに左右されることを考察する。他方でフッサールのように情動を知覚に模すモデルでは、処理の難しい明示的価値について、自己愛に対して抑制的な(シェーンリッヒ参照)価値モデルを提示する。「泣く赤ちゃんのジレンマ」を例にとりつつ、対照クラスの再措定/「再解釈」というアプローチによって、上記価値モデルに肉づけを与え、相対主義の問題に答える。 夏には伊藤貴雄氏が研究代表の科研費研究会にて、リッカートの基本構図を発表する予定である。価値の妥当と意識一般という、リッカート哲学を支える二元は、カント的物自体とヘーゲル的客観精神に準えることができる。前者は個人的主観に対する価値の外在であり、後者は社会的意識に対する規範の内在である。彼の哲学は、これら認知タイプと解釈タイプの価値論を、当為というフィヒテ的発想にもとづいて総合したと論ずる心算である。 別稿ではヘルム・ソウザ・タペロット等による現象学的・分析哲学的論考と合わせて、課題として残したプリンツの〔倫理学的〕自然主義を再検討したい。 なお不確実性と多選択肢選好の問題を、生物学における(搾取に対する)探索傾向と絡めて、非帰結主義的多元主義を扱う論文も予定している。
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Causes of Carryover |
コロナのため予定していたシンポジウムが開けず、謝金が丸丸残ってしまったので、今年度開催するシンポジウムの謝金等に当てたい(66000円)。コロナが落ち着き、移動が自由になれば、学会出張に使いたい。また研究協力者として、近堂秀氏・高木駿氏を迎えたので、彼らのシンポジウム参加経費に充当することも考えられる。
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Remarks |
上記HPより発表原稿がダウンロード可能。
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Research Products
(4 results)