2021 Fiscal Year Research-status Report
Anti-naturalism of value philosophy in the early twentieth century-For reconsideration of contemporary value theory
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20K00119
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Research Institution | Okayama Shoka University |
Principal Investigator |
九鬼 一人 岡山商科大学, 法学部, 教授 (30299169)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リッカート / 現代価値論 / 二重作用説 / 説明と理解 / 新カント学派 / 自己評価中立性 / カント価値哲学 / 遠近法主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
ラスクの価値認知主義を受け継ぐ方向性を、2020年度、『岡山商大論叢』「しなやかな合理主義から認知主義へ」論文で打ち出した。しかるに2021年7月、日本ディルタイ協会、関西研究大会報告にて、客観的な価値対象の認知に対して限界を指摘された。それを受けて、認知主義を全面的に見直しし、とくに主観の側の態度決定も勘案する立場に研究方針を変更した。すなわち価値判断を下すためには、客観的な価値対象の認知では済まず、火事場における消防士の父の「我が子を助けるべきか」の逡巡に示されるように、主観の側の役割的態度が必須であることに思いいたった。ただし価値判断がまったく「相対的に」浮動するわけではなく、各役割に応じるかたちで、価値判断が判断主体に課せられるべきであろう。この発想を、2021年、「ディルタイの解釈学的価値論――いかにして解釈学の妥当性志向は解きほぐされるか」論文でまとめ、公に問うた。 歴史的な研究としては、2021年9月、「近代日本における新カント派受容の歴史と意義」研究会(科研費代表者・伊藤貴雄先生)にて「リッカート哲学の臨界」を発表し、カント・ヘーゲルの中道にリッカート的フィヒテ主義を位置づけた。そこで客観的認知的基盤を認知する価値論、主観的態度をとる価値論の中道として、リッカートの(認知/態度決定的)二重作用説を称揚した。これは、先のディルタイ研究からの理論的発展の成果である。さらに2020年度にスピノザ協会で講演したスピノザ関係の研究を、2021年9月、「真理の宛て先――新カント学派とスピノザ」論文にまとめた。この論文では相関関係論を主題的に扱ったが、説明と理解という方法的二元を、カウルバッハ的遠近法主義の枠組みで捉える前提となるばかりか、因果的説明から独立した理解重視の価値理論へと展開できるはずである。これらはリッカート哲学をカントの正嫡に位置付ける作業の一端となろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画では、ドイツ文献調査を遂行して、後期リッカートの愛の哲学と文明価値(経済的価値)の議論が、幸福概念を媒介に結びついているという仮説を確かめるつもりでいた。しかるに、そのあたりのリッカートの議論が貧弱であることが準備段階でわかってきた。こうしたところ、日本スピノザ協会から講演依頼があり、新カント学派とスピノザの関係を講演で発表する機会をえた。成果は、『スピノザーナ』17号にて発表済みである(「真理の宛て先ー新カント学派とスピノザ」)。そこでの知見をもとに、青年リッカートのスピノザ論を研究対象とし(すでに、ネットを通じえた筆記原稿を解読した)、物心並行論の枠組みで、現実と価値の関係を考えられないかと模索中である。後の「推進方策」で研究計画は述べるが、そのスピノザ論の歴史的背景を、エルトマン、フィッシャー、トレンデレンブルクのスピノザ研究を前提に、文献的に掘り下げるため、ハイデルベルク大学に調査に赴く予定である。とはいえコロナで日程が延び延びになったばかりか、予期せぬウクライナ情勢もあり、なかなか渡航の目途が立たない。 現代価値論の再考のために、リッカートを補足する意味で、植村玄輝氏(フッサール研究者)、上島洋一郎氏(ディルタイ研究者)とのシンポを予定していたが、コロナで開催の機を逸してしまった。(本研究報告執筆前の2022年4月にようやく、シンポが日の目を見た。)成果は紀要論文「記述としての価値判断」に反映させる予定である。 当初、コンセプチュアル・アートや、心理学の認知療法を論じて、客観準拠の認知主義を正当化する計画であった。しかし先にも述べた通り、態度決定を加味した二重作用説に研究方針が転換したので、執筆を予定していた意想は他の論文に吸収せしめる予定である。目下のところ、役割的態度に即した価値判断行為の、行為主体中立性/相関性の問題を、主題的に論じる必要性を感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
リッカートの価値哲学を含めて、20世紀初頭の価値論の弱点は、因果論をどう価値論に組み込むのか、さらにどう価値判断の中立性を説くか、という点にある。それに対して、スピノザ的物心並行論を補助線として導入し、リッカート哲学を読み解きたい。もとより、スピノザの「一」なる実体を、彼の価値実在に重ね合わせ、その形而上学的性格を強調するという研究方法も考えられる。とはいえ、リッカート哲学の価値多元主義や個性的な価値に鑑みると、スピノザの「多」なる様態に即して、心的観念としての価値を考え、物心の因果的連関を棚上げにした方が、彼の哲学に即しているであろう。このような考えを下敷きにして、研究がまだ浅い1880~1890年代のリッカート哲学形成に、ハイデルベルクへの文献調査(リッカート遺稿)をつうじてアプローチしたい。そのさい、単にリッカート研究に狭窄化するのではなく、当時のスピノザ研究の動向、ヴィンデルバントのプラトニズム、現象主義の相関関係論、後年のリッカートの宗教哲学講義を視野に収めて、新カント学派にとってのスピノザの意義や、当学派の存在論の見直しを考究することにする。 他方、記述として価値判断を捉えるとしても、記述の普遍性・中立性を論じなくてはならないことを痛感している。そこでセンの行為主体中立性/相関性の議論を出発点として、グッドマンの「xにとっての善」を改作し、役割的態度にコミットする価値判断の行為主体中立性/相関性(ディルタイ研究論文で既に言及)を論じたい。そして役割的態度と認知的基盤からなる二重作用が、記述としての価値判断を成立せしめると見なす。この着想をダーウォル、ヴェルマー等の議論の関連において肉付けし、理性の事実という普遍的規範の基盤が、その実、論点先取なくしては成立しえないことに論を運ぶことにする。解釈学的循環を組み入れることになろうが、その成果を日本倫理学会で発表する。
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Causes of Carryover |
コロナのため予定していたシンポが延び延びになってしまった(当初、2020年度に対面で予定していたが、2022年4月zoomで実施)。当初、2021年度に予定していたドイツ文献調査旅行も、コロナ感染拡大で延期。目下、ウクライナ戦争の様子をみて旅行時期を検討中。このため、シンポ謝金とドイツ渡航旅費が使用できなかった。
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Research Products
(4 results)