2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K00131
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
高橋 葉子 京都市立芸術大学, 日本伝統音楽研究センター, 客員研究員 (20766448)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ツヨ吟発生のメカニズム / 世阿弥音曲伝書の再読 / 座敷謡と能謡 / 祝言と闌曲 / 能における呂律 / 葛野流小鼓 |
Outline of Annual Research Achievements |
①世阿弥の音曲伝書『五音』『五音曲条々』の読解と例曲分析を行い、五音の最高位である闌曲の思想がツヨ吟発生に関わった可能性を指摘し、能楽学会で報告した。成稿は22年度の能楽学会機関誌に掲載予定である。この研究過程では、謡伝書『塵芥抄』の例曲分析の成果も得た。また前年度から研究をしている「観世道見在判伝書」の翻刻作業に入り、途中経過を『謡鏡』研究会(日本伝統音楽研究センター藤田隆則氏主宰)ほか一団体で発表した。同書は従来あまり顧みられることのなかった資料だが、呂律の概念をはじめ独特な記事が多い。能の音楽における呂律は、ヨワ吟・ツヨ吟の概念とその分化にも関わる問題として重要なので、室町末期音曲伝書の一系統として位置付けをする必要がある。21年度は異本調査を行い、いくつかの伝本および版本の存在など、一定の流布状況がわかった。22年度に翻刻解題を準備している。 ②21年度は、関連研究として関わっているプロジェクト2件が最終年となり、出版成果物への執筆を行った。1件は「京観世」と通称された謡専門の家の一つである浅野太左衛門家の音曲資料の研究(代表大谷節子)であり、報告者は主に囃子伝書・謡本の解題を担当した。もう1件の日本伝統音楽研究センタープロジェクト研究「音曲技法書(伝書)の総合的研究」(代表藤田隆則)では、能〈羽衣〉の総譜制作と解説を完成させた。さらに別の関連研究として、神戸女子大学古典芸能研究センター「謡伝書研究会」(代表樹下文隆)において『謡秘伝鈔』の翻刻校訂をおこない同センター紀要に発表した。 ③本研究は、音曲用語索引の準備を目的の一つとしているが、21年度中には具体的に進展させられなかった。最終年度には、『八帖花伝書』『音曲玉渕集』「道見在判伝書」など索引のない伝書について、ウェブサイトでのデータ公開によって検索の便宜を供することを予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
21年度は代表者が関わるプロジェクト2件の最終年度にあたり、成果物出版に時間を要した。一つは浅野太左衛門家資料の整理解題事業(代表大谷節子)であり、他は、所属する日本伝統音楽研究センタープロジェクト研究「音曲技法書(伝書)の総合的研究」(代表藤田隆則)である。前者では、先行研究の乏しい稀覯資料の調査解題に、後者では、前例のない能一曲すべての囃子の総譜350コマの作成と解説に困難が多く、時間を要した。いずれも成果を得られ、有益な情報公開を行うことができたが、謡伝書用語の検索のための基礎データの公開作業に遅れが生じた。新型コロナ感染対策による、各研究所の閲覧規制のため資料調査が遅れたことも原因の一つである。
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Strategy for Future Research Activity |
①前年度に翻刻データを入力した『八帖花伝書』『音曲玉渕集』および入力途中の『道見在判伝書』について、当初の用語一覧の提示という方針を変え、全文を公開することで用語検索に供することにする。表記整備のうえ、Word等で全文を公開することによって、かえって検索の便がはかられるだろう。場所の変更はなく、代表者が所属する京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センターのアーカイブズの予定である。できれば、すでに同アーカイブズに公開されている早稲田大学演劇博物館蔵『謡之秘書』の翻刻の見直し作業を行い、訂正を加えて検索に供したい。 ②21年度に行った世阿弥音曲伝書『五音』の研究発表は、能の音楽の内的構造を明らかにするという本研究にとって得るところが大きかったが、同時に、後世への影響の大きい世阿弥・禅竹・禅鳳らの音曲理論に対し、音楽的研究が遅れていることを認識することにもなった。現在進めている『塵芥抄』と『道見在判伝書』の分析において、世阿弥音曲理論との関係を視野に入れて研究を進めることとする。
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Causes of Carryover |
資料調査に出張を予定していた法政大学能楽研究所が、新型コロナ対策のため長期間の閉室となったため、旅費の使用が抑えられた。また、3月に計画していた東北大学附属図書館への出張調査が、東北地方の地震被害のため不可能になり、あらかじめ内容のわかっている資料だけを複写依頼で取り寄せるにとどまったため、予定していた旅費等が残ることになった。最終年度に計画の翻刻資料のウェブ公開にあたってデジタル面のサポートが必要と思われるので、その費用に充当する。
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