2021 Fiscal Year Research-status Report
有機化合物による油彩画技法の成立と展開-混合技法「樹脂バインダー+油絵具」の検証
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20K00227
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
仏山 輝美 筑波大学, 芸術系, 教授 (70315274)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桶田 洋明 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 教授 (30336317)
加藤 隆之 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (70572056)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 有機化合物 / 樹脂バインダー / 油絵具 / アクリル樹脂絵具 / アルキド樹脂絵具 / 水可溶性絵具 / 混合技法 / 併用技法 |
Outline of Annual Research Achievements |
■材料実験・制作実践①:アクリルガッシュを用いた絵画作品(227.3×363.6㎝)を前年度より継続して制作し、アクリル樹脂絵具の使用感を確認するとともに、その有用性や独自性、表現効果における油絵具との相違について考察した。また、主に油絵具を用いた絵画作品2点を別途制作し、部分的にアルキド樹脂絵具の白色による明暗の描出と油絵具による彩色を繰り返す「混合技法」を実践しその使用感や効果について考察した。 ■材料実験・制作実践②:アクリル樹脂絵具と油絵具の混合・併用の研究において、アクリル絵具の添加剤であるモデリングペースト、ジェルメディウム等についてそれぞれの効果を中心に検証した。特にジェルメディウム、グロスメディウム、仕上げ用メディウムを用いた際の画面効果について試作を基に検証した。 ■材料実験・制作実践③:形態と彩色を分離した制作方法は、油彩画の古典的な描画方法であり、混合技法の特徴の一つでもある。白色による形態描画について、使用する白色を油絵具、アルキド樹脂絵具、水可溶性油絵具(界面活性剤絵具)の三種類を用いて制作に取り組み、それぞれの使用感や効果に関する比較を行った。 ■研究会の開催:絵具メーカーの技術者によるレクチャー「絵具の原料、油脂・樹脂・顔料」を中心に、研究代表者・分担者の研究会を兼ねたシンポジウムをオンラインによる公開で開催した(2022年2月18日)。絵具とその原料に関する知識を広げ、有機化合物の化学的メカニズムに関する理解を深める機会となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
■研究代表者、分担者がそれぞれに担当するアクリル樹脂絵具・アルキド樹脂絵具を用いた技法素材実験ならびに作品制作実践については順調に進展している。 ■絵具メーカーの技術者から専門的知識を提供いただく機会を得たが、有機化合物のバインダーや絵具、合成顔料(無機、有機)の生成に関する科学的知見をさらに深めるべく、引き続き積極的な交流・意見交換の場を設定する必要がある。 ■先行する作品を対象にした技法・材料分析のための実見調査や作家取材については、前年度同様に移動ならびに対面取材を自粛したこともあり年度当初の計画から若干の遅れがみられる。
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Strategy for Future Research Activity |
■作品の下層における水性絵具と上層における油絵具の使用による併用技法、ならびに白色浮出による混合技法のメカニズムについて再考し、制作実践を通して、油絵具と樹脂バインダー・樹脂絵具の併用・混合技法の有用性を検証する。そのために、絵具メーカー技術者の知見を得てアクリル樹脂絵具やアルキド樹脂絵具に対する科学的・化学的理解を深める。また、アクリル樹脂やアルキド樹脂を用いた描画技法の多様性について、当該作家へのインタビュー、当該作品の分析、描画技法に関する文献資料の収集に取り組む。 ■アクリル樹脂絵具と油絵具の混合・併用の研究においては、アクリル合成樹脂の混入率と平滑度・光沢度との関係、油絵具との定着度、アクリル絵具の乾燥速度に関する対策について検証する。アルキド樹脂絵具と油絵具の混合・併用に関して、新製品のアルキド樹脂絵具およびその添加剤について調査を行い、旧製品との比較や、油絵具との効果的な併用方法について検証していく。 ■引き続き絵具の種類の比較をおこなう。また、細密描画に適したマスチックワニスを入手したため、このワニスを用いた制作も進める。
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Causes of Carryover |
国内外における移動や対面取材を自粛的に制限したことにより、当該作家へのインタビューや作品の実見調査を予定通りに実施できず旅費や謝金を支出する機会がなかったため(オンラインによる講演に対する謝金支払い1件有り)。
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Remarks |
〈関連作品〉■仏山輝美:「沼の花」油彩・アルキド樹脂絵具・カンバス/「夜と朝」油彩・アルキド樹脂絵具・カンバス■桶田洋明:「花舞う記憶 Memories of Fluttering Petals」アクリル・油彩/「蒼い風」アクリル・水彩/「初夏の風」アクリル・テンペラ■加藤隆之:「成就の花束」アルキド絵具、油彩・パネル・綿布/「構築された時間と弛緩してゆく意識」水可溶性絵具・油絵具・パネル・綿布
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