2022 Fiscal Year Research-status Report
有機化合物による油彩画技法の成立と展開-混合技法「樹脂バインダー+油絵具」の検証
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20K00227
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
仏山 輝美 筑波大学, 芸術系, 教授 (70315274)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桶田 洋明 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 教授 (30336317)
加藤 隆之 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (70572056)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 油絵具 / アクリル樹脂絵具 / アルキド樹脂絵具 / 水性アルキド樹脂絵具 / 有機化合物 / 合成樹脂 |
Outline of Annual Research Achievements |
■技法材料実験・実践①:油彩画作品(194×259㎝)の制作を通して、アルキド樹脂の速乾性に着目し油絵具にアルキドメディウムもしくは同速乾メディウムを加えた描画実践を行い、その効果と課題について分析・考察した。また、油彩画作品(33.3×24.2㎝)の制作では、水性アルキド樹脂絵具と樹脂絵具(油絵具)の併用による「混合技法」に取り組み、水性アルキド樹脂絵具の有用性を検討するとともに、水性と油性の性質に留意した効果的な描画手法を模索した。 ■技法材料実験・実践②:アクリル樹脂絵具、油絵具、水性アルキド樹脂絵具の白色を画面に塗布し、乾燥後に色彩計で測定した。また同様にアクリル樹脂絵具、油絵具の主要な展色剤・添加剤についても測定し、黄色度の有無を確認した。 ■技法材料実験・実践③:混合技法に使用する白色について、卵樹脂テンペラに代わる絵具の使用比較を継続しておこなった。11×11㎝のテストピースに3点を試作。基本材料は、卵樹脂テンペラ絵具、油絵具、溶き油(乾性油、ダンマルワニス、揮発性油)を使用し、合板に吸収下地を施した支持体へ描画した。それぞれの作品において「水性アクリル樹脂絵具のアルキドメディウムグロスと顔料のチタニウムホワイトを使って自製した白色」による描画実験、マスチックワニスの試用、卵樹脂テンペラ絵具による白色の使用感を再確認する描画実験を行った。 ■研究会の開催:研究代表者、分担者を対象とした絵具メーカーの技術者によるレクチャーを開催し(2022年10月20日)、各自の課題と今後の研究展開について助言・指導を得る機会を設け、関連する技法・材料に関する理解を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者、分担者がそれぞれに担当する技法材料実験ならびに作品制作実践については順調に進展している。研究を通して、アクリル樹脂やアルキド樹脂による絵具への理解を深め、技法材料実験・作品制作実践によって具体的な有用性と課題を検証することができている。また、合成樹脂、有機化合物といったキーワードのもと、新たな課題を見出しつつある。一方、Covid19の影響によって、国内外の移動を伴う作品の実見調査、調査対象者への直接インタビューについては、自粛したこともあり当初の計画を十分に達成できたとは言い難い。
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Strategy for Future Research Activity |
■水性アルキド樹脂絵具と油絵具の併用による描画手順について、作品制作実践を通じてさらに実験・実践を重ねる。特に理想的な油彩画構造を表すFat over leanのメカニズムを念頭に描画工程における両素材の作用を確認するとともに、水性と油性の描画材の併用による独自の表現方法とその有用性を見出したい。また、アクリル樹脂絵具やアルキド樹脂絵具、アルキドメディウム等を用いる作家へのインタビューの実施や当該作品の実見による分析を行うとともに、関連資料・文献の収集に努める。 ■アクリル樹脂絵具、油絵具、水性アルキド樹脂絵具の単独および混合・併用による制作過程における難易度や、完成後の色彩・マチエール・光沢度の差異について、試作等をもとに検証する。また、アクリル樹脂絵具、水性アルキド樹脂絵具の添加剤の有無による制作過程における難易度や、完成後の色彩等の差異についても検証していく。 ■今回取り組んだ方法「水性アルキド樹脂絵具のアルキドメディウムグロスによる手練りの白色を用いた混合技法」について、さらに試作を重ねる。また、大作における同白色の使用方法と用いる材料(白色と樹脂)の効果について制作の所感をまとめる。
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Causes of Carryover |
2020年度以降、Covid19の影響によって国内外の移動を伴う作品の実見調査、調査対象者への直接インタビューを自粛したこともあり、当初予定していた複数の作家へのインタビューを実施できなかったため、各年度で旅費や謝金の支出に相当する次年度使用額が生じている。
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Remarks |
関連作品■仏山輝美:「夏之冬」油絵具・アルキドメディウム・アルキド速乾メディウム/「無題」樹脂絵具(油絵具)・水性アルキド樹脂絵具■桶田洋明「記憶を照らす灯」アクリル樹脂絵具・油絵具・水性アルキド樹脂絵具/「初夏の風」アクリル樹脂絵具・油絵具・水性アルキド樹脂絵具■加藤隆之「思案する世界と琴線にふれたカーテン」油絵具(水溶性油絵具含む)・テンペラ絵具/「追憶のカーテン」油絵具・水性アルキド樹脂絵具
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