2020 Fiscal Year Research-status Report
Plays in Print and Their Collections: Bibliography and Book History of Early Modern English Drama
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20K00420
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
英 知明 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 教授 (60218518)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | シェイクスピア / 書誌学 / 書物史 / 旧蔵本 / ミルトン |
Outline of Annual Research Achievements |
シェイクスピア作品を始めとした演劇作品は、上演後に印刷・出版され戯曲本となった。そうした書物の一冊、一冊は、一般読者に購入されたり、演劇研究者や愛好家、書物のコレクターの手に渡るなど、それぞれが個別で固有の歴史を持っている。演劇本が書籍市場で売買されたのち、現存するコピー(“copy”は、同タイトル書物の一冊単位の呼称)の各々がどのようなコレクターの書棚に収まり、またそこからいかにして別のコレクションへと渡り、現代に到っているか、そうした収蔵と集積、所蔵者変遷の歴史を書物史研究の視点から詳らかにすることが、2020年度の研究目的の大枠であった。
今年度は、18世紀の著名な役者や文人、シェイクスピア演劇の研究者たち(David Garrick Edmond Malone, George Steevens, John Philip Kemble など)が収集し、死後に売りに出された蔵書販売目録などを購入し、個々のコピーがいかに収蔵、集積、売却、拡散されたかを探究した。具体的には、Malone所蔵本の売却リスト、Kembleの旧蔵本であった *Matilda* (1798)等を購入して、彼らが手にした書物の現物および収集傾向を探索した。
今年度とりわけ注力したのは、フィラデルフィアの公立図書館に収蔵されている『シェイクスピア作品集』初版(1623)についての所蔵者研究であった。近年このコピーは、十七世紀の英国の代表的詩人ジョン・ミルトンの所蔵本であったことが分かっている。英米で盛んに研究が行われ、その事実が2019年に公表された。しかし、長いシェイクスピア編纂史研究の中で注目されて来た「初出」という概念についてのリサーチが全くなされていないという明らかな欠点があった。それを補うべく、全体像を精査し直してオリジナルな研究を行った。その成果は、2021年に公表される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究のさらなる目的として、シェイクスピアを始めとした劇作家の作品本文が、彼らの書斎からグローブ座などの劇場へ、またロンドンの印刷所や書店へと、その「生成の場」を変えて行くプロセスで、どのような影響や干渉、変更を受けたかの探索が含まれている。その実現のため、英国に残るオリジナルな演劇本を書誌学的手法を用いてリサーチし、その「印刷と出版」、「共作」や「加筆・改訂」に関わる未解明の問題の答えを探索する予定であった。
しかしコロナが原因で、大英図書館やオクスフォードのボドリアン図書館、ケンブリッジの大学図書館に現存する芝居本を直に使ってリサーチを行うことが出来ず、こちらの研究に関しては手つかずのまま終わってしまい、結果的に「遅れている」状況を招来したと言わざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、演劇本文の変遷の過程を「書誌学的検証法」を導入して行う予定である。英米での演劇作品の本文生成過程への精緻なアプローチは、我が国においては西洋書誌学を専門とする研究者人口が少ないためか、あまり実践されていない。そのため「書誌学研究」が手薄となっている印象は否めない。
さらに言えば、演劇作品の「書物」としてのその後の変遷を辿る「書物史研究」は、現在のところ日本ではほぼ皆無である。その意味で、演劇本文の初期段階から劇場や印刷所で受ける影響や変化を探究する書誌学研究を一方に、他方で様々なコレクションや蔵書目録などを視野に入れ、個々の古版本のコピーがどのような収蔵の歴史を辿ったかという書物史研究の二領域を併せ持つ本研究を、2021年度はいっそう推進していきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主たる理由は、コロナ禍で渡英が果たせなかったこと。
2021年度は、コロナ禍の様子を見ながらという条件付きになるものの、本来の研究計画に追いつくべく努力したい。
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