2021 Fiscal Year Research-status Report
Plays in Print and Their Collections: Bibliography and Book History of Early Modern English Drama
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20K00420
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
英 知明 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 教授 (60218518)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | シェイクスピア / ファースト・フォリオ / 書誌学 / 書物史 / ミルトン |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、シェイクスピア作品を購入・使用したと思われる著名な文人、役者やシェイクスピア研究者たちを対象に、演劇本がいかに彼らの活動に寄与したかを探る目的で研究を行った。とりわけ注力したのは、昨年度に引き続き行ったフィラデルフィアの公立図書館に収蔵されている『シェイクスピア作品集』初版(1623、以下Fと略記)についての所蔵者研究と、Fの印刷工程を探求する書誌学研究であった。
Fの「フィラデルフィア・コピー」は、十七世紀の英国の代表的詩人ジョン・ミルトンの所蔵本ではないかという推測のもと、英米の学者により研究が進み、その事実を証明する論考が2019年に公表された。しかしシェイクスピア編纂史研究の中で重要な概念である「校訂の初出」についてのリサーチがなされていないという欠点があった。本研究ではそれを補うべく、ミルトンの書き込みと18世紀版本における「初出」との関連を追究した。一例を挙げれば、『マクベス』の1幕6場、ダンカン王らと訪れたマクベスの居城前でバンクォーが言及する「寺院に棲みつく〈イワツバメ〉」(Temple-haunting Barlet)を、ミルトンは「寺院に棲みつく〈岩燕〉」(Temple-haunting marlet)に修正している。この変更の初出は、これまで1709年に刊行されたニコラス・ロウのシェイクスピア全集とされて来たが、それに先立って17世紀の半ば以前にミルトンが一足早く修正を行っていることを論じた。またこうした字句の修正により「解釈の可能性」をより深く追究しようと試みるミルトンの姿を明らかにした。尚、ミルトンが所蔵したFに関する研究は論文にまとめ、2021年10月に研究社から出版された論文集に収録された。
今年度の後半は、Fの詳細な印刷工程を探求する書誌学研究を開始しており、順調に進めば、こちらは2022年度に論文として完成する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
シェイクスピア作品は、上演後に印刷・出版され戯曲本となり、それが読者に購入されたり、演劇研究者や愛好家、書物のコレクターの手に渡るなど、それぞれが個別で固有の歴史を持っている。そうした書物の各々がどのようなコレクターの手に渡ったか、収蔵と集積、所蔵者変遷の歴史を通して、書物史研究の視点から詳らかにすることが「書棚の戯曲」を謳った本研究の目的の一つである。
その実現のため、英国に残るオリジナルな演劇本を書誌学的手法を用いてリサーチし、購入者がどのような書き込みを残したかを探索する予定を含んでいた。
しかしコロナが原因で、大英図書館やオクスフォードのボドリアン図書館、ケンブリッジの大学図書館に現存する芝居本を直に使ってリサーチを行うことは不可能となった。結果的に研究が遅延した所以である
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は「印刷所の芝居」に焦点を当て、とりわけFが印刷所でどのようなプロセスを経て製作、出版されたかを詳細に検証する。とりわけ未だ解明されていない、Fの中のある頁について「分析書誌学的検証」を行う予定である。
印刷所で行われた英国演劇作品の本文生成過程への精緻なアプローチは、我が国においては西洋書誌学を専門とする研究者人口が少ないため、あまり実践されていない。そのため「シェイクスピア書誌学研究」が手薄となっている印象は否めない。そうした現状を打破するため、新年度には、Fを印刷したジャガード印刷所について、そこで働いた複数の植字工を対象に、本文生成の細かなデータを集め、個人レベルで職人の仕事ぶりを明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主たる理由は、コロナ禍で研究活動が制限され、新しい英米の研究書の出版も滞った点にある。 また渡英の予定が実現しなかった点も大きい。
2022年度は、コロナ禍の様子を見ながらという条件付きになるものの、本来の研究計画に追いつくべく努力したい。
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Research Products
(1 results)