2020 Fiscal Year Research-status Report
Contextual comparisons revisited
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20K00582
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
小田 登志子 東京経済大学, 全学共通教育センター, 准教授 (30385132)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | コンテクスト比較 / Interpretive Economy / 様々な比較構文 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、基本的なコンテクスト比較の分析を英語の「compared to~」構文を用いて行った(Oda 2021)。そして、「compared to~」構文の意味があいまいにならずに一つに限定されるのは、Kennedy (2007)が提唱するInterpretive Economyと呼ばれる経済原理が働いているからであると提案した。この分析により、コンテクスト比較も一定の制限の対象であることを示し、コンテクスト比較に対して信ぴょう性を与えることができた。コンテクストを用いた分析は常に過剰生成(overgeneration)を招く危険が伴うからである。 次に、「compared to ~」構文で得られたコンテクスト比較の分析を中国語の「比~」構文と日本語の「~より」構文に応用した(Oda 2020; Oda 2022 JK )。この際どちらの構文にも、通常の比較とコンテクスト比較が混在している可能性を指摘した。この提案は今までに前例がない。 さらに、コンテクスト比較分析の応用範囲がかなり広いことを、「違う」の構文の例を用いて示唆した(Oda 2022 PACLIC)。比較構文が基礎になっている構文は多数存在する。中でも、最も単純な比較構文であるとされているのは「same/different」である。 日本語の「太郎の意見は花子と違う」はごく一般的な表現であるが、*Taro’s opinion is different from Hanakoとは言えない。英語のdifferent は英語の「more than~」構文と同様に厳密な計算によって意味が産出されからである。類似の日英のギャップは 「same」構文や最上級(superlatives)にも観察されるため、これらの構文が今後の分析対象となりうる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三件の学会発表を行った。また、四点の論文を投稿し、そのうち二点の論部ははすでに出版され、残りの二点はすでに校了して出版を待っている状態である。 学会発表においては、「一定の経済原理によって制限されるコンテクスト比較」という提案に対して、学会参加者から重要な指摘を得ることができた。端的に言うと、語用論的な要素がこの分析に与える影響を明らかにする必要性である。また、要旨の査読者からも有益な指摘を得ることができた。 このように、学会における研究者との交流を通して一定の収穫があったものの、コロナ禍のために学会が全てオンラインで行われたため、交流が限定されがちであったのも事実である。また、予定していた海外への渡航を行うことができなかった。研究を予定通り遂行するためには、コロナ禍が長期化する可能性を視野に入れて、海外の研究者との交流を計画してゆく必要がある。 なお、海外訪問先の一つとして予定しているドイツ・チュービンゲン大学のSigrid Beck氏との交流については、Beck氏の厚意により2020年度秋のチュービンゲン大学大学院のオンライン講義に参加させていただくことができた。この講義のテーマが比較構文であったことが幸いし、講義中に研究課題に対する助言を得ることができた。また、比較構文に関する幅広い知識を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の基本的な方向性については、三件の学会発表を通して一定の支持が得られたのと同時に、課題も指摘された。今後はこれらの課題に対する回答を盛り込んだ論文を執筆し、学術雑誌に投稿する予定である。主な課題は次の3点である。 (1)コンテクスト比較による意味解釈に対する語用論の影響:コンテクスト比較の枠組みでは、あくまでも言語表現として現れた情報(例 “Compared to John”)がコンテクストを形成し、free variable に値を付与する際の情報を提供することによって比較対象の値が決定する。これに対して窪田悠介氏・藏藤健雄氏・Frank Sode氏から興味深い指摘がなされた。3名が共通して指摘したのは、言語表現として現れたコンテクストと矛盾するような内容が文脈にある場合、コンテクスト比較にどのような影響を与えるのか、という点である。 (2)コンテクスト比較の分析が有効な構文の洗い出し:コンテクスト比較分析が有効な構文の対象として「same」構文や最上級(superlatives)に相当する日本語の表現が有力である。日本語の「同じ」や「いちばん/最も~」には、英語ではできない言い方が可能であるため、英語とは異なる仕組み、つまりコンテクスト比較で意味計算が行われている可能性が強い。 (3)統語論による分析との比較:本研究でコンテクスト比較の対象として挙げている例文と酷似した韓国語の例文に対して、An(2020)は統語論による分析を行っている。つまり、顕在的に表れていない要素を、本研究ではコンテクスト(presupposition)が補っていると捉えているのに対し、Anは統語による削除が行われていると分析している。本研究で提案した意味的分析とAnが提案する統語論的分析の比較を行う必要があろう。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、予定していた海外渡航が中止となり、次年度以降に持ち越しとなった。また、学会がすべてオンライン形式になったため、ポスターや配布資料を印刷する機会がなく、これらの費用が発生しなかった。 この研究計画において最も重要なのは、海外在住の研究者との交流である。コロナ禍が長期化する可能性を考慮して、研究期間の延長を申請することを考えている。
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