2021 Fiscal Year Research-status Report
公家法・公家家法・寺社法を中心とした中世法制史料の高度研究資源化
Project/Area Number |
20K00956
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
前川 祐一郎 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (00292798)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 日本中世史 / 法史学 / データベース / 中世法制史料集 / 史料学 / 武家家法 / 戦国法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、日本中世史研究の基本史料の一つ、佐藤進一他編『中世法制史料集』全7巻(岩波書店)のいわば増補版に相当するものを、東京大学史料編纂所のデータベースシステム上で作成し、日本中世の法制史料を高度研究資源化することを第一の目的としている。 2021年度には、まだタグ付けテキスト入力されていない『中世法制史料集』第6巻の後半(公家家法・寺社法)部分を、業者に依頼して入力した。2020年度の作業と合わせ、フルテキストデータベースの完成と公開に向けての作業は大きく前進した。中世の法制史料の研究資源としての高度化のための第一段階をクリアできたといえる。本史料のデータベース公開が実現すれば、文字列検索や関連史料との相互参照による同書の活用の便宜が格段に向上し、学界における今後の研究の進展に大きく寄与することが期待される。 また、もう一つの目的は、法制史料の高度研究資源化を通した、日本中世における法制史料のあり方の再検討である。この目的のため、2021年度には、武家家法(戦国法)の条文の立法の論理を内的に理解する研究を進めた。具体的には、戦国大名伊達氏の分国法である「塵芥集」(『中世法制史料集』第3巻所収)のいくつかの難解な条文を事例に、その立法の論理を読み解く研究をすすめ、その成果の一部を「「塵芥集」法文の立法論理の一事例」(『日本歴史』885号、2022年)として発表した。これにより、難解な中世法の史料を、立法者の思考に即して活用する一つの可能性が開けたと思われる。なお、この研究は、本来は本研究計画の終了後に行う予定であったが、新型コロナウィルス感染症蔓延により、予定していた公家法・公家家法・寺社法の史料調査が実施できない状況に鑑み、2020年度より、計画を一部変更し前倒し的に進めたものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の最大の達成目標であった『中世法制史料集』第6巻全体のフルテキスト入力については、予定通り、後半の公家家法・寺社法部分の入力作業を完了できた。データベース化と公開のために必要な入力データの校正作業は、可能ならば2021年度中に謝金により補助者に依頼し一部着手する予定であったが、補助者への依頼の目途が立たず、年度内に実施できなかった。 また、2020年度に続く新型コロナウィルス感染症蔓延の状況下で、主に近畿地方の史料所蔵機関での調査による公家法・公家家法・寺社法の関連史料の収集の計画は、2021年度内には実現できず、次年度に持ち越さざるをえなかった。 かわりに、2020年度と同じく、本来は本研究課題の終了後に行う予定であった研究計画を前倒しし、武家家法(戦国法)史料の性格を再検討する研究を進めた。2021年度には、その一環として、戦国大名伊達氏の分国法「塵芥集」(『中世法制史料集』第3巻所収)のいくつかの難解な条文の立法論理を忠実に読み解くことを試みた論文を発表するなど、一定の成果を上げたと思われる。 以上のことを総合的に判断すれば、2020年度から続く困難な状況のもとで、本研究課題は全体としてはおおむね順調に進展していると自己評価できるであろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2022年度は、過去二年間にフルテキスト入力した『中世法制史料集』第6巻のデータの校正作業を、謝金等による補助を得て完了し、東京大学史料編纂所のデータベースシステム上での公開を実現することが最大の達成目標となる。 ただ、新型コロナウィルス感染の再拡大等により、十分な時間を費やした校正を補助者に依頼できない事態も予想される。十全な校正が不可能な場合でも、一旦公開した後に適宜補修する方法なども視野に入れて、年度内のデータベース公開に向けて作業を進めたい。 また、2021年度までに実行できず持ち越しとなった、法制史料の再検討のための史料調査と関連史料収集を、近畿地方の史料所蔵機関を中心に可能な限り行い、最終研究年度における公家法・公家家法・寺社法の史料の性格の再検討の研究を進める予定である。 もし2022年度もなお史料調査が困難であれば、2021年度までと同様、本来は本研究課題の終了後に行う予定であった、武家家法(戦国法)史料(『中世法制史料集』第3巻所収)の性格の再検討の研究を引き続き行うことにしたいが、場合によっては、さらに研究年度の繰り越しをも可能性として視野に入れておきたい。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、以下の事情による。まず、2021年度に予定していた『中世法制史料集』第6巻後半のフルテキストデータ入力は、年度当初の見込みよりも少ない額で完了できたものの、謝金による補助作業者の確保に目途が立たず、校正作業に着手できなかった。加えて、新型コロナウィルス感染症蔓延下で、2020年度からの持ち越し分を含め、予定していた近畿地方の史料所蔵機関等への史料調査計画を実施できず、計上していた旅費を使用できなかった。研究計画の変更に伴い、一部を図書購入費等に充てたものの、最終的には残額が生じる結果となった。 2022年度には、持ち越した過去二年分の旅費と合わせて増額された旅費を使用して、可能な限り積極的に公家法・公家家法・寺社法の史料調査を行うとともに、謝金等として補助者による入力データ校正のために使用する計画である。 なお、2022年度もまた史料調査が十分に行えない場合、既に計画変更して着手している武家家法(戦国法)の性格再検討の研究に必要な図書購入費等に充当することや、研究計画年度の繰り越しなども視野に入れている。
|
Research Products
(1 results)