2021 Fiscal Year Research-status Report

天然素材から合成素材へ－現代歴史資料の保存に関する研究

Research Project

Project/Area Number	20K00997
Research Institution	Gangoji Institute for Research of Cultural Property
Principal Investigator	金山正子公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (20311491)
Project Period (FY)	2020-04-01 – 2023-03-31
Keywords	歴史資料 / 天然素材 / 合成素材 / 保存処理 / アーカイブ / プラスチック素材 / 劣化促進試験
Outline of Annual Research Achievements	歴史資料といえば一般的には紙に書かれた文字を残すというイメージがあるであろうが、実際に公文書館等で保存されている記録資料には付随するモノ資料の存在が少なくない。例えば、様々なサンプルや試作品、模型、イベントの記念品、スクラップ帳などが参考資料として保管庫の片隅に積まれており、具体的な保存対策も講じられていないことが多い。とくに戦後の高度成長期以降には民間企業の技術開発に伴う様々な素材が開発され、合成顔料や樹脂素材を使った印刷物をはじめ、プラスチック等の高分子素材の資料が少なくない。これらについては劣化の状況把握や劣化抑制の措置は、ほとんど進められてはいない。本研究では、記録資料とモノ資料をセットで保存することの必要性と意義、さらにその活用のための素材研究と劣化抑制の対策について検討する。対象とするのは、アーカイブなどに保管されている高度成長期以降のサンプル帳や模型や記念品などの公文書以外の資料やモノ資料である。これらの現代資料には近代以前の資料を構成する天然素材とはあきらかに性質の異なる合成的な素材が多用されており、その急激な劣化が将来的に懸念される。また残すことを意図せずにありあわせの素材で偶然的に作られ残された資料の保存と、その背景を検証するパーソナル・アーカイブの保存にも検討を加えたい。研究期間の２年目となる令和３年度においては、初年度に引き続き、各地博物館の図録やホームページなどで所蔵資料の検索を行い、合成素材の所蔵や活用についての実情を把握し比較した。また、樹脂系支持体における合成樹脂顔料の劣化について検証するための各種サンプルを作製し、暴露試験を継続中である。この試験結果は令和４年度に続く強化および補彩材料の検討につなげる予定である。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 4: Progress in research has been delayed. Reason 研究初年度に予定していた本研究の方向性を探るための海外調査を2年度目の令和3年に繰り越したが、いまだ続く世界的なコロナウィルス感染拡大のために実施できず、また国内調査も「まん延防止等重点措置」の発令の影響のため思うように調整できなかった。そのため、ホームページやカタログを中心とした情報収集やサンプル作製と劣化試験などの作業を中心として進行させるにとどまっており、机上の理論ではない実地研究のまとまった進捗を報告できない現況である。その結果、海外渡航費を含む70万円程の研究費を昨年度から引き続き令和４年度に繰り越した。
Strategy for Future Research Activity	令和2年度および令和３年度に実施できなかった海外調査は令和４年度に実施する予定であるが、世界的なコロナウィルス感染拡大の終息の目途はいまだたっておらず、海外との事例比較を前提とした本研究においては非常にイレギュラーな方法を検討せざるを得ない。令和４年度内での海外調査が実施できる見通しが依然として立たない場合は、海外の関連機関の担当者にメールやWEBを活用してヒアリングを進めることも視野に入れている。また国内調査も「まん延防止等重点措置」が繰り返し発令されている現況であり、計画的な調査の調整が見通せない状況が続いている。本年度下半期の状況をみて、調査の実施が困難な場合は、サンプルの作製と実験に重点を置いた方針に最終的に転換することも検討していく。しかしながら、合成樹脂素材の資料研究において先行しているオランダやカナダの保存機関の研究者との意見交換をはじめ、国内の保存機関における合成樹脂資料の劣化に関する実情の把握は、本研究の方向性を模索するうえでは必須である。最終年度の令和4年度での海外調査実施をなんとか実現し、かつフレキシブルに研究計画を推進していきたいと考えている。
Causes of Carryover	令和２年度に引き続き令和３年度に至っても本研究根幹の方向性を探るための海外調査が世界的なコロナウィルス感染蔓延のために実施できなかった。また国内においても「まん延防止等重点措置」の発令が繰り返され、計画的な調査実施が調整できなかった。そのため、カタログ収集やサンプル作製、劣化試験などの所内で可能な作業を進行させるにとどまったため、昨年度同様に旅費を中心とした次年度使用額が生じた。令和４年度において海外調査実施が可能となった際には、予定通り海外保存機関および分析事例を有する研究所等を訪問し調査を実施したい。また、国内の保存機関における合成素材の所蔵情報の調査は進行しているので、その劣化状況確認のための実地調査を進めたい。