2021 Fiscal Year Research-status Report
解体痕などからみる毛皮利用史ー北海道の古代・中世を対象にー
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20K01079
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
内山 幸子 東海大学, 国際文化学部, 教授 (20548739)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 毛皮 / 解体痕 / 出土遺体 / 北海道 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、前年度に続いて、オホーツク文化期から近世アイヌ期にかけて営まれた根室市トーサムポロ湖周辺竪穴群から出土した動物遺体の分析にあたった。結果、きわめて良質な毛皮を持ち、食料としての価値がほとんどないクロテンが、近世アイヌ期の包含層で確認できたことは、毛皮採取を目的としたクロテン猟が当時行われたことを推測させる点で重要であった。また、両文化期で確認されたオットセイは、良質な上に耐水性も高い毛皮を持つため、食料としてだけでなく、毛皮という素材の面でも高い価値が見出されていたと考えられた。そのほかの哺乳類も、質は前2種に劣るものの、毛皮が利用された可能性は高く、寒冷な地域で暮らす上で重要な役割を担ったとみられる。 出土遺体の分析に加えて、毛皮関連資料の観察も複数実施した。稚内市樺太記念館では、樺太領有時代に大泊町(現コルサコフ市)にあった、「東洋養狐場」の写真資料を観察することができた。さらに、同市北方記念館では、北海道・サハリンのオホーツク文化期の遺跡から出土した資料を観察するとともに、アイヌやウィルタといった北方諸民族について間宮林蔵が描いた史料(レプリカ)が展示されていたため、人と動物との関わりや毛皮製衣服をまとった人物にとくに注目して観察を行った。同史料は色付けされているため、文字説明がなくても、毛皮の種類が推測できるものもあり、古代・中世の毛皮利用を推測する上で大いに参考になった。国立民族学博物館では、シベリアを中心とする諸民族の毛皮資料の見学を行った。とくにニブフやウィルタについては、毛皮製の帽子や靴が複数展示されていたため、どのような種類の動物の毛皮をどういった製品の素材として使用していたかを間近に観察できたことは貴重な経験であった。加えて、皮製の紐の展示から、防寒具としてだけでない、毛皮利用の多様性を実感することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍のため、当初計画していた礼文町香深井1遺跡の発掘調査への参加ができなくなったり、毛皮関連資料を収蔵する各機関での作業に制限を受けたりした。しかし、動物利用に関する情報が著しく乏しい近世アイヌ期の動物遺体を、トーサムポロ湖周辺竪穴群で分析することができ、クロテンなどの毛皮が利用されていた可能性を実証的に示せたことは、大きな収穫であった。 また、出張が制限された分、書籍に提示されたり、博物館で展示されたりした毛皮が使用された民族資料を多く観察するよう努めた。この作業は、毛皮そのものが遺存しない古代・中世の毛皮利用の様相を推測する上でたいへん有益であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は引き続き、毛皮資料の収集と毛皮関連書籍・論考の収集を進めるとともに、出土した動物遺体について分析を行ったり、すでに分析したデータを集計したりすることで、解体痕の有無やその位置・方向などについて、傾向の把握に努めていく。 さらに、民族資料の観察を引き続き行うことにより、どのような動物種の毛皮(より詳細に分かる場合は、成獣/幼獣、雄/雌、体のどの部分かなども区別して記録する)をどういった製品に加工されていたかについてまとめる作業を行う。これにより、毛皮そのものが遺存しない、古代・中世の毛皮利用について具体的に推測するための一助としたい。
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Causes of Carryover |
当初、発掘調査に参加したり、資料収蔵機関に出向いて毛皮関連資料を観察したりする作業をより多く実施する計画であったが、コロナ禍により実現できなかったものもあり、次年度使用額が生じるに至った。 令和4年度もコロナ禍が一定程度続くことが予想されるため、出張を伴う発掘調査への参加や資料調査の実施は、引き続き制限を受ける可能性がある。その代替措置として、先方の許可が得られる場合は、資料を借用し、東海大学や自宅で分析できるようにするなどして、分析対象資料数が確保できるよう努めることとする。 合わせて、出張しなくても実施できる作業、例えば、書籍に提示された民族資料から、利用された毛皮の種類をまとめたり、傾向を見出したりする作業を、より多く行っていくことを計画している。
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