2021 Fiscal Year Research-status Report
日中文明遺物の産地探索をめざす中近世沈船・舶載遺物の考古学と自然科学の融合研究
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20K01099
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
桃崎 祐輔 福岡大学, 人文学部, 教授 (60323218)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
栗崎 敏 福岡大学, 理学部, 准教授 (20268973)
石黒 ひさ子 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (30445861)
脇田 久伸 佐賀大学, シンクロトロン光応用研究センター, 特命研究員 (50078581)
小嶋 篤 九州歴史資料館, 埋蔵文化財調査室, 研究員(移行) (60564317)
沼子 千弥 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (80284280)
市川 慎太郎 福岡大学, 理学部, 助教 (90593195)
古澤 義久 福岡大学, 人文学部, 准教授 (40880711)
岡寺 良 福岡県立アジア文化交流センター, その他部局等, 主任研究員 (70543693)
上野 淳也 別府大学, 文学部, 教授 (10550494)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 棒状鉄素材 / 福岡県朝倉市才田遺跡 / 華光礁1号沈船 / ジャワ海沈船 / 南海1号沈船 / 八重山諸島 / 日本刀 / 大鎧 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年1月18日から3月16日まで、九州国立博物館で本科研の中間成果にもとずく企画展「アジアを変えた鉄-大宰府鴻臚館の衰退と海商の時代―」を実施、150頁の資料集を刊行した。展示したなかでも福岡県朝倉市才田遺跡中世居館で12世紀後半の中国陶磁器とともに出土した棒状鉄素材は、事前調査で、円錐形に束ねられ、紐で結縛された状態であったと判明し、西沙諸島の華光礁1号沈船やインドネシアのジャワ海沈船など、12世紀の沈没船に、中国陶磁器とともに大量に積載されていた棒状鉄素材と梱包状況や形状に一致点が多く、中国から日本に輸出された鉄素材の可能性が高いと判断された。既発見の鉄素材積載沈船は中国南部から東南アジアへの航海で沈没したものであるため、今後は日本への航海で沈没した船舶からの鉄素材発見が期待される。才田遺跡出土の棒状鉄素材は、保存処理時の剥離片が多く保管されており、福岡県教育委員会に自然科学的分析を申請して剥離片10点の提供を受けた。現在、市川慎太郎氏と栗崎敏氏のラボで分析を進めている。なお新型コロナウイルス流行で中国の調査は見送らざるを得なかったが、中国国家文物局考古研究中心研究員の孟原召氏と上海大学文化遺産与信息管理学院の丁見祥氏に論文翻訳・転載の許可を受け、シンポジウム資料集に収録できた。また中国の調査経費を沖縄県八重山群島の調査に振り向け、波照間島大泊浜貝塚・石垣島仲筋貝塚・西表島上村遺跡などの鉄素材について検討し、これらの一部を九州国立博物館で展示した。 本シンポジウムでは日本や琉球列島の中世開始期に、中国宋から大量の鉄素材や鉄鍋が輸入され、鋤鍬・鎌・斧・馬鍬・山刀などの農工具、日本刀や大鎧などの武器・武具に加工され、開発と戦乱の時代が到来した可能性を指摘した。本シンポジウムは制限下ながら120名が聴講し、その内容は朝日新聞・西日本新聞に大きく取り上げられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では中国での沈船引揚鉄素材の調査を計画していたが、新型コロナウイルスの沈静は絶望的であり、科研期間中の調査実現は不可能となった。そこで代替資料として、八重山諸島に主眼を置く琉球列島出土の棒状鉄素材の調査を進め、今後の研究深化の糸口をつかんだほか、シンポジウム終了後ただちに長崎県鷹島に移動し、3月6日・7日には鷹島海底元寇沈船の引揚遺物を調査し、松浦市教育委員会に自然科学的調査用のサンプル提供について内諾を受けた。今後、元寇船の船釘等の自然科学的分析が実現すれば、確実な中国産鉄の自然科学的データを確保することができる。今年度中の研究内容は下記の通り。 、①朝倉市才田遺跡棒状鉄素材剥離片の自然科学的分析②鷹島沖海底沈没船の貝類附着船釘等にみる海洋生物の鉄同化作用の検討、③鷹島元寇船の鉄製品の自然科学的分析④琉球列島・薩南諸島の棒状鉄素材の資料収集とヤコウガイ交易との関係解明。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年1月15日、北九州市いのちの旅博物館名誉館員の松井和幸氏が『鉄の日本史』を刊行され御恵贈いただいた。本書では弥生時代から今日に至る日本の鉄生産を通覧される一方、中世の棒状鉄素材については馬鍬刃説を固守され、流通鉄素材とみる本研究とは反対の見解を示された。これによって中世の鉄流通についての論点が明確になり、本科学研究についても、①日本出土棒状鉄製品が「廷」と称された流通鉄素材であることの実証、②棒状鉄素材のうちに、中国からの輸入品が含まれていることの考古学的・自然科学的分析にもとづく実証、③馬鍬とは考えられない八重山諸島の事例の詳細な検討、④八重山諸島や琉球列島・薩南諸島で重要な鉄の対価であったと推定されるヤコウガイ交易の再検討などである。ただ本研究のテーマや分担者数は、基盤研究Cの予算規模ではもはや限界であり、2022年度には最終報告書の刊行以外の活動に避ける予算は僅かである。今回、極めて制限の大きな条件下ではあるがかなり大きな調査成果が期待でき、新聞紙面での取り扱いからみて社会的な注目度も高いと判断されるので、今後本科研を基盤Aに拡大するための申請をこの夏に計画している。
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Causes of Carryover |
新型コロナ蔓延につき、中間成果についてシンポジウムで発表することはできたが、代表および分担者の資料調査や自然科学的分析作業が十分実施できておらず、最終年度に調査・分析を行った上で、最終成果報告を出す必要があるため。
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Research Products
(28 results)