2023 Fiscal Year Research-status Report
Historical Reconstruction and Changing Process of the Taiwan Plain Aboriginal Groups of Taiwan
Project/Area Number |
20K01197
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
清水 純 日本大学, 経済学部, 特任教授 (30192610)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 平埔族 / オーストロネシア語族 / 交易ルート / クヴァラン / バサイ / トルビアワン / 生業 / 太平洋 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度には2022年度末に行った2月の補充調査データをもとに、クヴァラン族の命名慣行についての最終的な研究報告をまとめ『台湾原住民研究』27号に投稿し、査読を経て掲載された。これは『台湾原住民研究』24号に執筆したクヴァランの命名慣行の内容を補完し、仮説をより確実なものとして補強することのできる内容となった。 このほか、北部および東部に分散居住する平埔族、バサイ系言語を話していたバサイ・プロパーとその下位グループであるトルビアワンに関する社会構造と生業に関する歴史的な研究を、宜蘭平原に分布するクヴァランとの比較、オーストロネシア語族の太平洋への拡散との関係、および生業としての交易ネットワークの構築といった幅広い観点から見直した。これらバサイ系言語を話す民族の特徴は、ほかの平埔族と異なり、地理的に農耕に適した地域の居住を伴わず、港湾や川筋を拠点として、内陸と台湾の他の地方を結び、さらに中国との物資のやり取りや、太平洋を行き来する交易のルートの一部を形成するものとして歴史的な機能を果たしてきたものであるため、オーストロネシア語族の太平洋への拡散や生業の特徴、海を介した民族的活動という観点から広域的・俯瞰的に位置付けるべきであると考える。浅井恵倫が植民地時代に調査した宜蘭の内陸部の村落におけるトルビアワン語の存在については、こうした文脈において理解可能になる点で、幅広い視野からの歴史的データの再解釈は必須である。台湾原住民族の中でも、近年さらに発展を遂げた台湾並びに太平洋諸地域の考古学、民族学、歴史学、言語学などの成果にも関連付けながら、台湾原住民の中でも特異な位置づけを持つバサイ系民族の社会を太平洋におけるオーストロネシア語系民族の活動と重ね合わせて位置付ける考察は意義がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は2023年度をもって実施4年目となった。この間、2020~2022までの間はCovid-19の感染拡大により、予定していた台湾での実地調査がかなわず、2023年2月に実施した調査を除けば本研究で計画した調査の遅れを十分に取り戻すことができていない。また、2022年度末の台湾調査の際に逆流性胃腸炎になり、帰国後も年間を通じ体調不良が続いたため、2023年夏季休暇、2024年春期休暇に想定していた台湾調査を見送ったという経緯がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
東海岸の民族のうち平地に存在し他グループの社会と文化についての検討をさらに進める。バサイ系民族の活動の中でも、バサイ・プロパーと、トルビアワンでは内容に違いがある。相互に言語が通じる民族ではあるが、生業や社会構造などにも違いがあることが歴史的文献を通じて認められる。この違いをオランダ時代の報告書を通じて整理し、両社会・文化の特徴について明らかにする。また、バサイ系の民族は他の台湾原住民諸グループは明らかに異なる特徴もあり、オーストロネシア語族の拡散の時期の相違とも関係がある可能性があるため、原住民所属の言語、神話伝説、文化的特徴などの多方面における違いに注目して、既存の民族誌的データとの比較考察を行う。
|
Causes of Carryover |
2023年度においては、当該年度の配分予算30万円に加えて、2022年度までの基金繰り越し分が33万5289円あった。これはコロナ感染症の拡大によって本研究の開始年度より海外調査やフォーラムへの海外出張が行われなかったための繰り越しの結果としての累積であった。2023年度においては、当該年度予算である30万円を超える44万9789円の支出を行ったが、これまでの累積の繰り越し分の金額の方が多かったため、2023年度において全て使い切ることはなく、残額18万5500円はさらに2024年度への繰り越しとなったものである。次年度は台湾への実地調査およびフォーラム参加などの海外出張を行う予定であり、残額はその費用として投入する計画である。
|