2021 Fiscal Year Research-status Report
日本における移民・難民の包摂と排除に関する法社会学的研究
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20K01244
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
長谷川 貴陽史 東京都立大学, 法学政治学研究科, 教授 (20374176)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 移民 / 難民 / 包摂 / 排除 / 入管 / 入管法 / グローバル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、わが国における移民・難民の社会的包摂と社会的排除の様態を、法制度及び社会実態の調査により、法社会学的に分析し、法政策的提言に結びつけることを目的とする。 本来は、移民・難民に対する面接調査や質問票調査の実施を念頭に置いていたが、コロナ禍によって実施が困難であったため、今年度は、公開されたデータや資料、研究会等で得られた知見をもとに、論文を2本公表するとともに、オンライン研究会で報告を行った。 論文としては次の2本を公表した。(1)「グローバル化の下での移動の自由:パンデミックと外国人労働者」法学セミナー798号43-50頁(2021年7月)(2)「日本における移民・難民の包摂と排除-序論的考察」法律時報93巻8号66-70頁(2021年7月)。前者は申請者が法学セミナーの特集として企画したものであり、パンデミックにおいても外国人労働者がなお技能実習生や留学生として来日し、低賃金労働等に従事している状況を指摘した。他方、後者は、2020年度に開催された基礎法系学会連合・第12回基礎法学総合シンポジウムにおける報告を論文化したものである。とりわけ移民・難民の包摂にとって障害となっている4点(入管法における不確定概念の多用、技能実習生の処遇、被退去強制者の処遇、難民認定の少なさ)を挙げ、改善策を提案した。 さらに、2021年8月には、世界政治研究会(オンライン開催)において「日本における移民・難民の排除についてー入管法・入管行政に関する若干のコメントと展望」という題目で研究報告を行った。移民・難民の排除については、上記論文(2)の内容を敷衍して説明した。他方、包摂への動きについては、近年の日本の裁判例が、難民関連訴訟においてUNHCRのハンドブックを参照している点を指摘し、裁判例の分析を通じて、グローバルな難民認定基準の収斂に向けた動向と、難民包摂への歩みを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展しているといえる。 その理由は、第1に、2020年度に第12回基礎法学総合シンポジウムで移民・難民に関するる論点を剔出した報告を行い、それを踏まえて2021年度には、法学セミナーで特集を企画して論考を発表するとともに、法律時報にも論考を公表したからである(論文名は上述の通りである)。さらに、これらとは別の視点-難民関連訴訟における近年の裁判例の動向や、廃案となった入管法改正案を評価した論考が、立教法学105号に掲載され本年4月に刊行されたためである(論考の題目は「わが国の移民・難民の包摂に向けた動向―難民関係訴訟及び入管法改正案にみる包摂への試み―」である)。このうち法律時報に掲載した論考では、技能実習生の処遇や非強制退去者に対する処遇など、いわば外国人の排除につながる動向を検討したが、立教法学誌上の上記論文では、反対に外国人の包摂につながる動向を検討している。 第2に、第12回基礎法学総合シンポジウムの報告者を中心として、現在、人の異動やアイデンティティをめぐる論考を収めた共著を刊行する準備が進んでいるからである。既に共著者全員が論考を提出しており、首尾よくいけば2022年8月には刊行される予定であるためである(出版社も決定している)。 第3に、2021年度に世界政治研究会において報告を行ったことは上述の通りであるが、それに加えて、2022年6月には、外国人を主要な顧客とする弁護士グループの研究会において講演を依頼されており、さまざまな機会に移民・難民に関する意見交換・討議の場を持ち得ているからである。 もっとも、本研究課題が「おおむね順調」としか評しえないのは、申請当初に予定していた移民や難民、支援者団体に対する面接調査がコロナ禍のために進んでいないためである。コロナ禍の感染状況は現時点で予測できないが、当事者の調査は今後の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策であるが、第1に、上述した通り、コロナ禍で進んでいない移民・難民・支援団体・弁護士等への面接調査を実施することである。現時点ではコロナ禍の収束は予測できないから、Zoom等のオンライン方式で面接ができないかを検討している。ただし、問題は日本語能力の不足している外国人(とりわけ割合の多いベトナム人、中国人、フィリピン人など)への面接を円滑に実施するために、ある程度資質の高い通訳を確保することである。幸い、中国人については知人に中国語の堪能な大学助教がおり、その知人の協力を仰ぐことができるが、ベトナム人調査の通訳の確保が困難である。他方、支援団体や弁護士については、幸いに難民支援団体の関係者の知遇を得ることができたし(私自身も支援団体「NPO法人・移住者と連帯する全国ネットワーク」の会員となった)、弁護士についても「入管問題調査会」に参加している弁護士らからの支援を仰ぎたいと考えている。 第2に、日本政府や法務省、入管当局の動向にあわせて、あるべき移民・難民政策について具体的に検討を行うことである。たとえば古川禎久法相は技能実習制度を根本的な検討を進めており、政策論の帰趨によっては、同制度が廃止されるか全面的に改正される可能性もある。また、先般の入管法改正案は廃案となったが、入管法改正は再度提出される可能性がある。こうした制度再編の動向を無視して現状分析や評価・予測を行っても生産的ではない。このため、政府や法務省の政策の動向を注視しながら、あるべき入管政策・入管法改正等について検討してゆきたいと考えている。 第3に、社会学における包摂と排除の議論を踏まえ、移民や難民をどのように把握するか、理論的な検討を深める必要があると考えている。とりわけ社会システム理論において、移民、難民、避難民等をどのように位置づけるかが重要である。この点をさらに掘り下げてゆきたい。
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Causes of Carryover |
第1に、コロナ禍が収束せず、社会調査(面接調査や質問票調査)ができなかったからである(旅費、準備に要する諸費用、謝金等が不要となった)。 第2に、コロナ禍のため、国内外の学会・研究会・シンポジウムはすべてオンラインとなり、私はシンポジウム報告を行ったもののオンラインであったため、旅費・宿泊費等は不要となったからである。 そこで、次年度の使用計画であるが、やはりコロナ禍のために対面の面接調査や質問票調査は困難であると考えられるため、Zoom等を利用した面接調査、インターネットを利用した質問票調査を実施したいと考える。助成金は調査対象者への謝金や、調査会社に対する費用の支払い、調査票作成に必要な書籍やソフト ウェアの購入費用に費消する予定である。
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Research Products
(4 results)