2020 Fiscal Year Research-status Report
ローマ法における無権限者の行為に関する追認理論の再検討
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20K01250
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Research Institution | Kyushu International University |
Principal Investigator |
菅尾 暁 九州国際大学, 法学部, 教授 (20552326)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ローマ法 / 無権限 / 追認 / 追認担保 / 表見相続 / 相殺 / 事務管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、無権限者の行為をなぜ追認できるのかという問いを解明するために、無権限者の行為の法的構成を類型化して、追認対象となる行為の範囲を明らかにすることを目的とする。本年度は次の点につき研究を進めた。 ローマ法大全所収の法史料中、学説彙纂と勅法彙纂につき、先行文献を踏まえつつ、①当事者の属性、②無権限者の行為内容の類型について、追認・追認担保が問題となる法史料を中心に整理を進めた。追認・追認担保が現れる法史料の整理としては、「追認」の文言が現れる法文をデータ抽出・整理し、かつ、VIR(Vocabularium Iurisprudentiae Romanae)のratihabitio、reorの項目に掲載法文とのすり合わせを行った。これにより、VIRに現れない追認事例があることを明らかにできた。 具体的な成果としては、上記の検証過程で、追認担保が行われる相殺事例であるD. 16,2,9(パウルス法文)を見いだすことができたことである。ローマ法における相殺は現代法における相殺制度とは異なり、また、当該法文は家子・家父関係という権力服従関係を前提とする内容であるが、家子が家父の債権をもって相殺することが認められる点は、無権限者による行為として重要な論点であると考える。 具体的な成果として発表するまでは至らなかったが、第4回日本ローマ法研究会(令和3年3月15日開催)において、「家子による組合に基づく債権の相殺と追認問題―D. 16,2,9pr.-1(Paul. 32 ad ed.)」と題して報告した。この成果については、令和3年度に公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大の影響と令和2年度前半まで教務責任者であったことから、不本意ながら、本研究のエフォート割合が著しく減少してしまい、進捗に大きな影響が出てしまった。年度後半からは遅れを取り戻すべく、類型化を進めつつ、個別史料の検討を加え、研究会報告まで進めることができたものの、研究成果発表までは至らなかったため、上記区分に該当すると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
無権限者による行為の類型化をさらに進め、完成させる。また、研究期間後半の計画に向け、事務管理と追認が問題となる法史料を検討し、必要文献を前倒しして入手し、追認構成と事務管理構成の検討に向けた準備を進める。令和3年度においても海外での史料収集が困難であると考えられ、また、国内においても図書館利用が限定される状況を鑑み、計上していた旅費を文献購入費・複写費に充填することで、研究計画を進める。
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Causes of Carryover |
令和2年度に未使用額(次年度使用)が発生した理由は次の通りである。(1)新型コロナウイルス感染症対策のために他大学での蔵書閲覧・複写機会が大幅に限定されてしまったこと、(2)国内外での文献調査・収集、学会発表の機会を失ったこと、(3)年度後半から方針を切り替え、文献購入に重点を置いたものの、検討に合わせて追加で必要となった文献を十分に網羅できなかったこと、である。 これを踏まえて令和3年度においては、(1)早期に関連基本文献を手元に揃え、(2)それを基に他大学での相互貸借・複写依頼を利用して、必要文献の収集に努める。(3)令和3年度もコロナ禍の影響があり、国内外での出張機会が限定されるため、特に国際学会(SIHDAを想定)での発表は令和4年度に期する。
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Remarks |
第4回日本ローマ法研究会(令和3年3月15日、Web開催)において、「家子による組合に基づく債権の相殺と追認問題:D. 16,2,9pr.-1(Paul. 32 ad ed.)」と題して、報告を行った。本報告要旨については、ローマ法雑誌第2号(2021年)373頁以下に掲載されている。
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