2020 Fiscal Year Research-status Report
立憲主義思想の継受と「国体」――戦前日本及び中国における「国体」の役割と意義
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20K01270
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
森元 拓 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (50374179)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石塚 迅 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (00434233)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国体 / 穂積八束 / 立憲主義 / 法の継受 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「国体」(国体なるもの)の意義と役割について考えることを目的としている。「国体」は過去の遺物として等閑視されてきた。しかし、日本が西洋の立憲主義思想を継受する際に、継受の段階に応じて「国体」は一定の理論的役割を果してきた。このような認識のもと、立憲主義思想の日本への継受における「国体」の意義と役割を明らかにするとともに、異文化への法の継受のプロセスを分析する。 本研究の第一段階(フェイズⅠ)として、国体の役割を西洋文化との「接合」と把握する。具体的には、「国体」は、①立憲主義と天皇制の「接着剤」というポジティヴな意味で機能と同時に、②西欧民主主義から天皇統治体制を護る「防御壁」というネガティヴな意味でも機能しているととらえ、その代表的思想家として穂積八束の法思想における「国体」の意義と役割について考察することとしている。 天皇主権説を構築し、明治憲法体制を絶対君主制的に解釈した八束に対して、これまでの公法学説史的研究は、高い評価を与えなかった(たとえばR.H.マイニアの研究)。しかし、私は、八束は、極めて戦略的にこのような解釈体系を採用したのであり、その趣旨は、まさに上述のフェイズⅠにおける「国体」のアンヴィヴァレントな役割を両立するために採用したものと考えている。このような観点の下に、執筆したのが、「法におけるクレオールと穂積八束の国家論」(『公正な法をめぐる問』(2021、信山社)所収)である。 本論文では、八束が戦略的に彼の法理論を構築したという理解に基づき、八束の国家論の再解釈を行った。「国体」から八束の法理論・国家理論の新たな意義を提示できたものと考えている。それと同時に、「法のクレオール」という手法を用いつつ、法の継受期(フェイズⅠ)の「国体」の意義についても、理論的に考察することができたものと理解している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
八束の研究で、公表できたものは、先に述べた「法におけるクレオールと穂積八束の国家論」(『公正な法をめぐる問』(2021、信山社)所収)のみである。その意味で、必ずしも十分に研究が進んでいるとは言い難い。しかし、本論文は、八束における「国体」のフレームワークを示したものとして、本研究における基盤となる研究である。これを提示できたことには、一定の意味があるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、法の継受における「接合期」(フェイズⅠ)の「国体」の研究を深化するため、引き続き、八束の研究を行いつつ、「融合期」(フェイズⅡ)の研究にも着手したいと考えている。具体的には、研究計画で示した通り、フェイズⅡの代表的な思想家として美濃部達吉を取り上げ、美濃部における「国体」の意義について検討していきたい。 これに加え、上杉慎吉の研究にも同時に取り組みたい。上杉は、フェイズⅠの八束の後継者であるとともに、フェイズⅡの美濃部の好敵手でもあった。八束、美濃部、上杉の三者の関係を考察することは、法の継受の「融合期」における「国体」の意義と役割を解き明かすには最適な素材ではないかと考えるからである。 先の見えないコロナ禍のもと、教育・研究環境が厳しさを増している。このような状況の中で、八束・美濃部・上杉の研究を並行して行うというのは、少々欲張りな構想かもしれないが、微力を尽くすのみである。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの蔓延により、計画していた海外出張及び国内出張を中止せざるを得なかった。その分、IT機器の充実をはかり、遠隔での学会や研究会参加の準備を行い、実際に遠隔の学会や研究会に参加したが、出張旅費の削減額をカヴァーするには至らなかったため、次年度使用額が生じた。 なお、新型コロナウィルスの蔓延状況がこのまま続き、出張を行えない状況が続けば、次年度以降も、本年度と同じような状況に陥る懸念がある。
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Research Products
(2 results)