2021 Fiscal Year Research-status Report
多様な国際規律の私人への直接適用に対応する国内適用論の憲法的把握
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20K01287
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
齊藤 正彰 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (60301868)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 憲法 / 国際規律 / 国内適用論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国際協力のために深化した国際規律について、日本の国法体系が有する固有の受け入れ構造を検討し、現実の国際社会の法秩序の多元化・断片化に対応しうるような、個別事例の解決のための具体的構成を把握する包括的な憲法理論の形成を行うものである。 今年度は、多様な国際規律について、それが国法体系において国内の私人に適用される形態を整理した。条約の規律対象は拡大しているが、とりわけ国際人権条約については、憲法の規定を補完するものとして公権力の行使を制限または促進する規定のほかにも、法律の規定と同様に私人相互間に直接適用することが予定されているもの、国内立法を促すもの(それ自体としては直接適用が想定されていないもの)など、種々の規定があることを明らかにし、その中でも、法律に匹敵する内容・性質を有する国際規律の私人間における国内的実施について、欧州人権条約の積極的義務論も参看しながら、日本国憲法の具体的解釈との接続可能性を解明した。この内容については、論文にまとめて所属機関の紀要に公表し、さらにその後の議論を取り込みつつ、研究書として公刊した。 さらに、国際協力のための国際規律を考える際には、対照的に、憲法が国際規律や国際協力における立憲主義の不足に対する補償回路となる場面も考えられることから、国家の対外活動の統制について検討し、とりわけ、武力行使に関する国際規律と戦争放棄・戦力不保持を謳う憲法規定とが結び合って規律が多層化する可能性について考察した論文を、同じく紀要に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度と同様、新型コロナウイルスの感染拡大およびその防止のために、学会や研究会の開催が制約され、研究者間の意見交換の機会が失われた面があった一方、コロナ禍になって普及したZoomやSlack等のオンラインツールの活用によって、従来は対面する機会がなかった他分野の研究者や、十分な時間をもって直接やりとりすることのできなかった遠隔地の研究者と、踏み込んだ議論をすることができるようになった。それらの効果による研究の進展・深化もあり、当初の研究計画に記載したよりもやや早く、ここまでの研究成果をまとめた研究書(単著)を今年度末に刊行することができた。 そうしたことから、当初計画よりも大幅に進展しているとまではいえないが、十分順調に進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、当初の研究計画に基づき、これまでの検討を承けて、具体的問題状況に対処しうる日本国憲法の解釈を総合的に提示することを目指すが、ここまでの検討結果を取りまとめて研究書として発表したことから、それについて憲法学のみならず関連領域の研究者に意見・評価を求めることで、研究の一層の深化を図る。そのため、公刊した単著を主要な研究者に送付して、研究成果の公開と意見交換を促進する。また、オンラインツールの活用によって形成されているピアレビューの機会を、さらに活用することとする。 今年度も、新型コロナウイルスの感染拡大状況によって資料収集や学会・研究会への参加等に制約が生じることが予想されるが、この間に培われた方策を活用しつつ、早期に研究書を公刊したことによって得られる評価・議論とそれへの応答等を踏まえて、研究計画全体の進捗や社会状況の変化に鑑みた合理的な調整を行いながら研究の推進を図り、さらなる研究成果を適時に公表できるように努める。
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Causes of Carryover |
発注済みの図書の入荷が遅れたため形式的には残額が生じているが、発注中の書籍が納品されれば、繰り越された残額が次年度において自動的にその購入のために支出されるものであり、研究計画の変更等、研究遂行上の対応が必要となるものではない。
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