2023 Fiscal Year Research-status Report
家族法における比例原則ー家族への法的介入に関する研究
Project/Area Number |
20K01403
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鈴木 博人 中央大学, 法学部, 教授 (90235995)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 親の権利 / 子の福祉 / 里親 / 里子 / 児童福祉法 / 児童ならびに少年援助法 / 比例原則 |
Outline of Annual Research Achievements |
家族関係への法的介入を親子関係への介入という側面から研究するのが本研究の大枠での目的である。この観点から見ると、家族関係への法的介入が行われる場面としては、支援的介入と権利制限的介入の場合がある。象徴的に言うならば、支援的介入は家族関係が壊れないようにするための介入、権利制限的介入は、最終目標は家族関係が壊れないようにするためであっても、そのために特に親の権利制限が行われる形での介入である。比例原則との関係でいえば、権利制限的介入の前段階に支援的介入が十分に行われる(行われた)かが重要である。また、親の権利に対する権利制限的介入は、必要最小限のものでなくてはならない。 家族関係への法的介入の上記の構造を前提にして、今年度は、日本の里親制度が抱える問題を端緒にして、法的介入の二つの側面をドイツ法を比較法の対象として比較法的に分析した。日本の里親制度は行政法である児童福祉法に規定されており、法制度上は施設養護と家庭養護としての里親による子の養護は同列に置かれている。都道府県(実質的には児童相談所(長))の判断により要保護児童の養育が委託されるが、里親に法律上固有の権利があるわけではない(施設も同様)。これに対して、ドイツ法では、日本の児童福祉法に対応する社会法的第8編(児童ならびに性根年援助法)では、里親の利用は、配慮権を有する親の権利とされており、養育委託は契約構成されている。福祉機関である少年局は、実親に対して里親をあっせんするという構造になっている。他方で、里親には民法上、日常生活事項についての養育権、里親里子関係が長期間継続した時は、実親からの子の引渡し要求に対して対抗する里親の申立権が法定されている。実親の支援を受ける権利の枠組みの中で提供されている里親制度と、親子としての結びつきが成立した後の実親の権利制限と里親里子関係の保護という関係に焦点を置いて研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
文献研究はほぼ計画通り進んでいるが、比較法対象国であるドイツでの聞き取りを中心とした現地調査が遅れている。その最も大きな原因は、コロナパンデミックの影響である。当初の研究計画では、ドイツでの聞き取りを中心とした実態調査を行い、それと並行させつつ、かつ調査が得られた示唆を踏まえて理論的分析を進めることとしていた。この順序での研究計画は、コロナパンデミックのために変更せざるを得なくなった。そのため文献研究を先行させつつ、現地調査により文献研究による問題の理解が正しいかどうかを検証し、必要な修正を加えることとした。 2023年度においては、聞き取りを行う約束であった行政法上の比例原則を主たる研究テーマにしているニールス・ペーターゼン教授(ヴェストファーレン・ヴィルヘルム・ミュンスター大学)がニュージーランドで客員教授を務めるため不在になるという事情から、ドイツでのその他調査も含めて延期せざるを得なかった。このため、文献研究と実地調査とを重ね合わせる総合的研究を行うことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度においては、ドイツでの聞き取り訪問調査を行う。調査先は、民法および行政法(特に社会法典第8編)研究者と福祉機関である少年局、家庭裁判所である。訪問調査で得られた結果を踏まえて、家族法における比例原則を直接規定している民法1666条・1666a条の立法史および実務上の運用を明らかにする。2023年度において行った里親制度を題材にした研究は、いわば家族法における比例原則研究の各論部分に当たるということができる。 ドイツ家族法における比例原則の位置づけ、実務上の運用を踏まえて、日本法では、比例原則が家族への法的介入の際にどの程度考慮されているのか、また、近年相次いだ家族法立法を比例原則として観点から検証する。
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Causes of Carryover |
コロナパンデミックの影響で研究計画で予定していたドイツでの実地調査を行うことができなかった。そのため、最も費用がかかると想定しているドイツへの調査旅費を執行できなかったため次年度使用額が生じた。また、実地調査で収集した資料やインタビューの整理を行うためのアルバイトの雇用も、上記と同様の理由から行うことがきなかったため、それも次年度使用額が生じた理由の一つである。 2024年度においては、ドイツでの研究者、少年局、家庭裁判所を中心とした聞き取り調査および資料収集を行う。この調査は8月におよそ1カ月かけて行い、調査内容を整理したうえで必要に応じて、短期間の補充・確認調査も実施する。これら調査の整理のためにアルバイトを雇用する。 上記のほかに必要な文献・図書購入も行う。
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