2020 Fiscal Year Research-status Report
冷戦期の東欧における社会主義体制の比較研究:権威主義の強靱姓を解明するために
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20K01482
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
福田 宏 成城大学, 法学部, 准教授 (60312336)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
姉川 雄大 千葉大学, アカデミック・リンク・センター, 特任講師 (00554304)
河合 信晴 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (20720428)
菅原 祥 京都産業大学, 現代社会学部, 准教授 (80739409)
門間 卓也 関西学院大学, 文学部, 日本学術振興会特別研究員PD (90868291)
加藤 久子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (10646285)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 東欧 / 社会主義 / 東ドイツ / 民主主義 / 権威主義 / チェコ / ポーランド / ハンガリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、社会主義期の(旧)東欧諸国を事例として権威主義体制の強靱性を明らかにしようとするものである。従来の政治学の議論においては、全ての国や地域は民主化されるべきであり、実際においても、その方向に向かっているという暗黙の了解が存在した。ところが、2010年代の半ば頃より、民主主義の「後退」や権威主義体制の「しぶとさ」が盛んに議論されるようになってきている(一例として、ヤシャ・モンク(吉田徹訳)『民主主義を救え!』岩波書店、2019)。その意味において、東欧の権威主義体制は今こそ参照すべき歴史的経験と言えるだろう。確かに、第二次大戦後の東欧諸国はおしなべてソ連の強い圧力の下に置かれていたのであり、これらの国々が取り得る選択肢は極めて限られていた。だが、体制の改革や民主化の試みが繰り返されながらも、1989年まで体制が維持されたのは何故なのか? 本研究では、史資料の公開やオーラルヒストリーによって急速に進展しつつある歴史学上の成果を活かしつつ、当時における体制について研究を進めている。 東欧諸国の体制転換から既に30年が経過し、社会主義時代は「歴史」となった。現在では、当時の体制を直接経験していない若い世代が、新しく公開された史資料を駆使して研究を牽引している。また、政治学や歴史学だけでなく、社会学や人類学などの研究者もこの時代の研究に参入し、新しい知見をもたらしている。注目すべきはソ連後期を扱ったアレクセイ・ユルチャクの『最後のソ連世代』(半谷史郎訳、みすず書房、2017)であろう。人類学者の彼は、ソ連人として生きた自らの経験も踏まえつつ、建前と本音が分裂した社会という従来の理解を覆す説を提示している。こうした最近の研究を参照しつつ、本研究においては、代表者を含む6名のチームによって旧東欧諸国の比較研究を実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
少なくとも現時点において、研究を進めること自体はできている。だが、コロナ禍による影響は甚大である。2020年度は国外調査を一切行うことができず、おそらく2021年度についても同様であろう。今のところ、本研究のメンバーは「過去の蓄積」や二次資料等を活用することによって研究を進めているような段階であるが、今後については研究計画の軌道修正が必要になってくるものと思われる。 ともあれ、2020年度は本研究の初年度ということもあり、メンバーそれぞれのこれまでの研究を踏まえたうえでの成果を出す形となった。最大の成果は、河合氏による『物語 東ドイツの歴史』(中公新書)である。一般向けの新書の形ではあるが、本書は、同氏によるこれまでの現地調査を基盤とし、かつ、東ドイツ研究についての最新の研究動向を踏まえたうえでの総合的研究となっている。 また、代表者の福田が共編者である『「みえない関係性」をみせる』(岩波書店)も間接的ながら、本研究の出発点をなす成果である。本書は直接的には別科研(新学術「グローバル関係学」)の成果であり、音楽やスポーツ、装いといった文化の政治性に焦点を当てた書物であるが、その成果は、権威主義体制維持における「娯楽」の機能を解明しようとする本研究においても大いに活かせるものと考えている。 その他、メンバーである菅原氏と加藤氏が『社会学で読み解く文化遺産』(新曜社)の共著者を務めるなど、本研究の成果発表および成果の社会還元を持続的に実施できている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍への対応が最大の課題である。2021年度についても現地調査が難しいとなると、当面のところは、アーカイヴ調査やインタヴューなどに頼らない研究を前提として作業を進めていく必要がある。本研究の申請書類でも記したとおり、代表者はここ数年ほど地域横断的かつ学際的なプロジェクトのなかに加えて頂くことができたので、本研究においては地に足の着いた実証的な研究を行いたいと考えていた。だが、それが難しい状況であるため、少なくとも今年度においては、既存研究の整理に重心を置きつつ、インターネット上で公開されている一次史料の発掘にも務めていきたいと考えている。 また、6人の共同研究という利点を活かし、メンバー間の積極的な情報交換によって旧東欧各国の研究状況を確認し、比較の視点を獲得することを心がけたい。 なお、2020年度より準備を開始している翻訳作業にも力を注ぎたい。旧東欧全体を俯瞰するような日本語の文献が最近では少ないため、本研究においては、最新の研究動向を踏まえつつも一般向けとしても通用する文献の翻訳も行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、言うまでもなくコロナ禍である。端的には国外での現地調査ができなかったためであるが、無理をして年度内に予算を使い切るのではなく、積極的に次年度に残すようにした。元より基盤Cを6人で配分する形をとっているため、全員が国外調査を行う上では十分な額ではない。コロナ禍による制約は残念ではあるが、コロナ収束後に国外調査できるように資金を温存することを優先した次第である。 なお、我々にとって必要なのは、たとえ少額であっても持続的な研究資金であり、今後のコロナ禍の状況如何によっては、研究期間を延長することも検討中である。いずれにせよ貴重な公金を用いるわけであるから、可能な限り有効な使い方をしたいと考えている。
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Research Products
(12 results)