2020 Fiscal Year Research-status Report
公務員および公務員志望者の不正行動傾向の分析とその抑止方法
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20K01626
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
小島 健 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (60754827)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 嶺那 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (60846236)
森川 想 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (10736226)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 公共部門 / 先行刺激 / 経済実験 / 不正行動 / 損失回避行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
公務員を志望する学生に対して、公務員志望属性を刺激することが、経済実験で測られた学生の不正行動(以下、ズル)において非単調な効果があることを明らかにした。 まず、実験を行った学生の多くは相対的にみてズルをしていない。確実にズルをしていない学生の割合が8割以上であるのに対し、同実験のメタ分析であるAbeler et al. (2019)によると、確実にズルをしていない学生の割合はおおよそ4割程度である。国内の別の大学の学生の同実験結果と比較しても、その学生の割合は6割程度であることから、公務員志望属性を先行刺激していなくても既に多くの学生がズルをしないことがわかる。 その学生に対して公務員志望属性を事前に刺激することで、ズルを抑制する効果とズルを促進する効果が得られた。これらは公務員志望属性が2つの特徴を保有しているからだと考えられる。1つは公共部門(社会)に貢献したいという動機が不正行動と負の相関を保有しているためである。この特徴が先行刺激によって活性化し、ズルを抑制したと考えられる。 他方、小さなズルによって報酬が期待報酬を超えることができる場面において、ズルが促進された。これは公共部門における働き手が民間部門の働き手と比べて損失回避的であるという特徴が刺激されたためと考えられる。期待報酬が参照点となった場合、小さなズルによって損失を回避できる。すなわち、損失回避の手段としてズルが用いられたと考えらる。 ズルというのは2つの選好、嘘回避選好とリスク選好、の現れである。したがって、この研究結果は、以下の政策的含意がある。まず、公共部門において、損失局面における不正抑制が効果的であることが示唆される。また、既に存在する損失の補償を条件とすることでリスクのある改革を推し進め易いことが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行刺激と公務員志望者の不正行動については、学会において3度の報告を行い、有益なコメントをいただいた。そのコメントを反映し、現在投稿段階にある。 続いて、これらの研究と、大阪大学暮らしと好みのアンケートの分析から、明らかになった公務員の特徴をもとに、オンラインアンケートを実施した。 当初の予定では経済実験を行う予定だったが、新型コロナウイルスの蔓延のために、研究者の移動や被験者の募集が困難となり、オンライン上での分析に切り替えた。オンライン上における実験においても、十分な再現性が確認されているため、問題がないと考えられる。 オンライン上の実験結果では、民間企業に勤める会社員よりも公務員の方がズルをしないこと、測定方法によってはリスクを嫌う一方で、異なる測定方法では両者のリスク選好が等しい点などが明らかとなった。これらは、現在まで不明確となっていた点を明らかにする手掛かりとなりえる。この研究結果を国際学会で報告するための応募をすでに行っており、昨年度から今年度にかけての研究の進捗はおおむね順調に進行していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
オンライン実験については、国際学会における報告後、すぐに国際雑誌へ投稿する予定である。また、オンライン実験において判明したデータから、以下の分析を追加で行う。(i) 高次のリスク選好とチート行動。(ii) ステレオタイプとチート行動。(iii) Public Service Motivationとチート行動。(iv) 会社員と公務員の損失回避行動の違い。(vi)公務員のリスクテイカーとなる条件。 上記の分析と議論を十分に行い、残された疑問を明らかにして、それらの解決のために国際的な比較をするためのオンライン実験を実施する。また、上記の分析結果は別の論文としてまとめ、投稿する。国際比較となるオンライン実験の実施までを本年度中に行い、来年度に分析と報告を行う予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの蔓延により、多くの学会等がオンラインで開催されることとなり、旅費が使用されなかった。また同理由により対面による経済実験の実施が困難となった。そのため、オンライン実験による分析へと切り替えた。単なるアンケートではなく、回答結果に従って報酬が変更されるものとなっている。切り替えの際、手法変更に伴う確認事項、(i)オンライン実験と対面実験の結果の一般的な差異、(ii)オンラインで行う上での実施方法の差異、の確認に時間を要したため、実験の実施が翌年へとずれ込んだ。しかしながら、上記の確認事項が終了し、オンライン実験のノウハウの蓄積も終了したため、本年実験を行うことが可能である。対面実験に比べて、オンライン実験の方がサンプルを多く集めやすく、一人当たりの単価も安く済む一方で、オンライン実験の強味を活かすためにサンプル数自体を多くする必要があり、また、実施をアンケート会社(クロス・マーケティング社など)へと委託する必要がある。その結果、対面実験よりもオンライン実験の方が費用が多くなる傾向がある。したがって、旅費や対面実験のために必要としていた予算を繰り越し、次年度予算と合算したうえで、十分に分析が可能となるオンライン実験を実施する。
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