2020 Fiscal Year Research-status Report
従業員の年齢構成、特に高齢化が企業金融に与える影響
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20K01772
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
千野 厚 長崎大学, 経済学部, 准教授 (30647988)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 企業金融 |
Outline of Annual Research Achievements |
人口の高齢化は先進国共通の現象ではあるが、従業員の年齢構成、特に従業員の高齢化が企業金融、より具体的には企業価値や企業投資、等に与える影響に関しては、先行研究の蓄積は少ない。従業員の高齢化の一つの要因は全体的な人口の高齢化であるのは明白であるが、もう一つの重要な要因は各国にも存在する高齢者の雇用を守るための様々な雇用保護規制である。本研究は、高齢者の雇用を保護することが企業の金融面にいかなる影響を与えるかを実証的に解明する。より具体的には、高齢者に対する雇用保護規制の強化、特に2012年に国会で可決された高齢者雇用安定法の改正を用いて、差分の差分(DID)の枠組みで高齢者に対する雇用保護規制が企業価値や企業投資、等に与える因果的効果を推定する。当該法改正以前は、一般的には60歳が退職年齢であり、各企業は退職後の継続雇用希望者に対して65歳までの雇用確保措置を導入することが義務化されてはいたが、希望者の中から継続雇用の対象者を選別することも同時に認められていた。しかしながら、2012年に国会で可決された法改正により対象者の選別が認められなくなり、原則的に希望者全員の65歳までの継続雇用を企業が行うことが義務付けられた。言い換えれば、当該法改正は高年齢労働者の雇用保護を強化する政策であったと解釈できる。今年度における本研究では、当該法改正の企業価値に対する影響をDID分析により推定した。DID分析における処置群と対照群については、法改正直前に55-59歳代の従業者が多かった産業に属する企業を処置群、少なかった産業に属する企業を対照群と定義した。企業価値は標準的なトービンのQを用いて測定した。DID分析の結果、処置群に属する企業の価値は、対照群企業の価値と比較して、法改正後に有意に低下したことが明らかになった。以上が、今年度の主要な研究実績である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請段階では、まず初年度において主要分析に用いるデータセットの構築および予備的な分析を行う予定であった。従業員の年齢構成の把握には、総務省統計局が5年ごとに行う「就業構造基本調査」のデータを用いた。当該調査は産業別(日本標準産業中分類)の従業者年齢分布を年齢5歳刻みで公表している。この分布を利用して、産業別の高年齢従業員の比率を計算した。また、各世代別の従業員の賃金等に関するデータも、厚生労働者が毎年行う「賃金構造基本統計調査」より入手した。一方、企業価値や企業投資、等の企業レベルの金融・財務データは、日経NEEDSデータベースから入手し、財務変数の作成を行った。これらのデータを用いて2012年の高齢者雇用安定法の改正が企業価値に与えた予備的な分析を行った。「研究実績の概要」でも述べたように、当該法改正が企業価値に与えた影響に関してはDID分析から明瞭な推定結果が得られている。しかしながら、未だ推定結果を論文の初稿としてまとめるには至っていない。現在までの進捗状況は、研究全体の約30%程度を達成した段階と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現段階では、2012年の高齢者雇用安定法の改正後に企業価値が低下したことは明らかになったが、なぜ企業価値が低下したのかに関する分析は未だ初期段階である。今後は主にどのような経路を通じて企業価値の低下がもたらされたかを解明していく。具体的には、当該法改正が設備投資や研究開発投資、労働生産性や売上高成長率、等に与えた影響をDID分析により進めていく予定である。また、企業価値の低下に関しても、法改正の可決時期における株価のアナウンスメント・リターンやバイアンドホールド・リターン、等を用いて企業価値に対する結果の頑健性を確認する必要がある。以上、これらの分析を一通り終えた後に、結果をまとめた論文の初稿を完成させ、国内外の学会発表に投稿していく予定である。
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Causes of Carryover |
申請時の科研費使用計画においては、研究開始初年度から日経NEEDS Financial Questデータベースを契約して企業レベルの株価・財務データを入手する予定であった。当該データベースの契約費は年間約200万円程度必要であり、もともと科研費の交付額では1年半程度しか契約できない予定であった。しかしながら、今年度は所属学部から今年度限りの研究経費補助金が交付されることが今年度開始直前に判明した。そこで、今年度は科研費を用いずに学部の研究経費補助を用いてデータベースを契約し、次年度から研究最終年度までのデータベース契約費を科研費により賄うことにより、研究期間全体を通じてデータベースを契約しながら研究を進めていくことが可能になるため、今年度は科研費を使用しなかった。そのために、次年度使用額が生じた。
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