2021 Fiscal Year Research-status Report
従業員の年齢構成、特に高齢化が企業金融に与える影響
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20K01772
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
千野 厚 長崎大学, 経済学部, 准教授 (30647988)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 企業金融 |
Outline of Annual Research Achievements |
人口の高齢化および労働力の高齢化は先進国共通の現象ではあるが、高齢者の雇用を守るために各国に存在する様々な雇用保護規制も、従業員の高齢化の一因と考えられる。本研究は特に、高齢者の雇用を保護することが企業価値にいかなる影響を与えるかを実証的に解明する。前年度においては、2012年8月に衆議院で可決された、60歳以上の従業員の雇用継続を実質的に義務化した高齢者雇用安定法の改正が、企業価値に与えた影響の推定を差分の差分(DiD)分析の枠組みで行った。分析の結果、高齢者に対する雇用保護を強めた法改正が処置群企業の企業価値(トービンのQ)を低下させた事実が明らかになった。今年度においては、同様のDiD分析の枠組みを用いて当該法改正が企業レベルの収益性、売上成長率、平均労働生産性、平均賃金、等に与えた影響を分析した。なお前年度におけるDiD分析と同様に、法改正時点において55-59歳代の従業者が多い産業に属する企業を処置群、少ない産業に属する企業を対照群と定義した。分析の結果、当該法改正後に処置群企業の収益性、売上成長率、および労働生産性の成長率が有意に低下したことが明らかになった。法改正後における収益性や売上成長率の低下は、法改正後における企業価値の低下と整合的である。また、当該法改正が企業価値に与えた負の影響の頑健性を確認するために、衆議院における法改正可決日前後の短い期間における各企業の株価の超過収益率を用いた分析も行った。分析の結果、処置群企業の株価の超過収益率は法改正可決日前後に有意に低下したことが明らかになった。この結果は、前年度に行ったトービンのQを用いたDiD分析の結果とも整合的であり、前年度の推定結果の頑健性が確認された。以上が、今年度に行った分析の主要な結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究開始時の計画では、今年度末迄には主要な分析結果をまとめた英文の初稿を完成させる予定であった。しかしながら、本研究課題の開始以前から進めていた他の研究プロジェクトの論文が、Financial Management誌から改訂要請(Revise & Resubmit)を受けたことにより、今年度は当該論文の改訂作業に多大な時間を費やすことになった。最終的には当該論文は2021年8月にFinancial Management誌に採択されたが、結果的に本研究課題の進捗を遅らせたことは否定できない。主要な分析結果自体は既に得られているので、今後は速やかに主要結果をまとめた英文による初稿を完成させ、国内外の学会発表に投稿していく予定である。現在までの進捗状況は、研究全体の約50%程度を達成した段階と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況でも述べたが、次年度(2022年度)においては速やかに主要な分析結果をまとめた英文による初稿を完成させ、国内外の学会発表に応募していく予定である。また、次年度においては初稿を完成させることに加えて、可能な限り追加的な分析も行っていきたい。現段階では、2012年の高齢者雇用安定法の改正後に処置群企業の企業価値が低下したことは明らかになったが、その因果関係に関する分析は未だ十分とは言えない。特に現在までの分析では、2012年の法改正時点において55-59歳代の従業者が多い(少ない)産業に属する企業を処置群(対照群)と定義しているが、処置群と対照群の企業は55-59歳代の従業者の多寡以外の点においても異なる可能性がある。その場合、2012年以降の処置群企業の企業価値の低下が法改正に起因したものであるとは必ずしも言えず、法改正とは関係のない要因で処置群企業の企業価値が低下した可能性が残る。従って、法改正が2012年以降の処置群企業の企業価値に与えた因果関係をより明確にするために、次年度は追加的な分析を初稿の作成と同時に行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
申請段階の科研費使用計画においては、研究開始初年度から日経NEEDS Financial Questデータベースを契約して企業レベルの株価・財務データを入手する予定であった。当該データベースの契約費は年間200万円以上必要であり、もともと科研費の交付額では1年半程度しか契約できない予定であった。しかしながら、前年度に引き続き、今年度も所属学部から今年度限りの研究経費補助金が交付されることが今年度開始直前に判明した。そこで、今年度も科研費を用いずに学部の研究経費補助を用いてデータベースを契約し、次年度のデータベース契約費を科研費により賄うことにより、研究期間全体を通じてデータベースを契約しながら研究を進めていくことを可能にするために、次年度使用額を残した。但し、研究代表者の所属機関が次年度から変更となり、転出先の研究機関が日経NEEDS Financial Questデータベースを法人契約している可能性がある。もし次年度以降に科研費を用いて当該データベースを契約する必要が無くなった場合は、直接経費の一部を研究遂行上必要な他のデータベースの契約に充当し、残りの額は返還する予定である。
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