2021 Fiscal Year Research-status Report
伝統産業地域特性に応じた創発的コラボレーション基盤の構築・マネジメント方法の確立
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20K01855
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Research Institution | The University of Nagano |
Principal Investigator |
東 俊之 長野県立大学, グローバルマネジメント学部, 准教授 (20465488)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮下 清 長野県立大学, グローバルマネジメント学部, 教授 (50239399)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 伝統産業地域 / 地域特性 / 協働(コラボレーション) / コラボレーション基盤 / 伝統性 / オープンファクトリー / 地域アイデンティティ / 協働の場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、伝統産業地域の特性を考慮した、創発的コラボレーション基盤の構築・マネジメント方法を探求することを主目的としている。 まず、2021年度は前年度(2020年度)に着目した伝統産業地域におけるオープンファクトリー・イベントの調査研究を進めた。具体的には、新潟県内および福井県におけるオープンファクトリー・イベントを調査した。そして上記調査に関連する学会報告を、7月および10月に実施した。そのなかで、オープンファクトリーがイベント参加企業における売上の増加や就職希望者の増加等にとどまらず、地域意識変化につながり、コレボレーションが生まれやすくなる「協働の場」を形成する可能性があることを仮説的に言及した。ただし、検討の不十分さが指摘されたため、追加の検討が必要であると考えている。 また、昨年度検討した伝統産業地域特性の分類は、根拠となる資料収集が十分に進まず、2021年度中に研究成果にまとめることができなかった。現在、経済産業大臣指定伝統的工芸品(237品目)の分類を進めており、何らかの形で研究成果として公表したいと考えている。他方で、伝統産業地域内のネットワーク形成も検討し、①伝統産業従事者が緩やかに繋がるソーシャルキャピタル型ネットワークと、②プロデューサー的主体がハブとなって伝統産業従事者を束ねていくハブ・アンド・スポーク型ネットワークが存在すると考察した。今後、地域特性とネットワーク特性を考慮したコラボレーション基盤の構築やマネジメント方法を検討する必要がある。 さらに、創発的コラボレーション基盤を構築するためには「地域のアイデンティティ形成」と「地域に対する個人のアイデンティティの形成」が不可欠であると考えているが、そのためには拡張学習論や越境学習論を援用し、地域の他主体との関係を検討することが有用であると考えている。こうした視点から、現在論文をまとめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、昨年度と同様に出張調査が十分に進められなかったことが主たる原因である。さらに、本務校の学務業務に想定よりも多くの時間を取られたことも研究が進まなかった理由である。 昨年度(2020年度)の遅れを取り戻すべく、今年度(2021年度)は実証研究(インタビュー、フィールド調査など)を計画していたものの、結局3か所程度の調査に終わってしまった。特にオープンファクトリー・イベントの調査を進める予定であったが、コロナ禍によりイベント自体の中止や延期、また縮小があり、十分な調査が進められなかった。今年度は移動の制限が緩和されたこともあり、多くの調査出張を行いたいと考えている。 また、昨年度検討した地域特性の詳細を検討することができなかった。産地形成の歴史的調査を実施しようと考えていたが、出張が制限されたこともあり、十分な資料の収集ができなかったことがその理由である。今年度は、文献収集方法を見直し、資料収集を進めたいと考えている。 一方で、理論研究は関連書籍の購入や先行研究のレビューを進めており、比較的順調ではあるものの、研究成果を生み出すまでには至っていない。文献調査により、これまで検討してこなかった越境学習論やソーシャルキャピタル論などの理論も検討する必要が生じてきたと考えたためである。なお、理論研究部分に関しては、学術論文として公表すべく準備を進めている。 以上のとおり、昨年度と同様に半年程度の遅れが生じていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(2022年度)が当初計画の最終年度に当たるため、これまでの遅れを挽回すべく、以下のように取り組んでいきたいと考えている。 まず地域特性要因ならびにネットワーク形成要因に基づく、伝統産業(伝統的工芸品産業)地域の分類を行いたいと考えている。それに先立ち、十分に検討しきれていない伝統産業地域の特性要因を、関連他分野の理論を検討することによって精緻化したい。そのうえで、各伝統産業を歴史的視点から分析することによって、その地域特性を明らかにし、分類を試みたい。 また、「創発的コラボレーション基盤」についての検討も深化させる必要があると考えている。これまでは、「ノッ トワーキング」(山住・エンゲストローム, 2008)の概念を中心に検討してきたが、加えて「越境学習」や「拡張的学習」の理論も参照する必要があると考えている。これらの理論を踏まえた上で、創発的コラボレーション基盤の概念を深く検討したいと考えている。 理論研究を進めた上で、遅れている実証研究により力を入れて取り急ぎ研究を進めたいと考えている。次年度(2022年度)は移動の制限が緩和されるので、より多くの出張調査を実施し、本研究の主目的である創発的コラボレーション基盤の構築・マネジメント方法の探求に資する事例を収集したいと考えている(対象:15~20程度)。本務校の学務などを考えて近隣の伝統産業地域の調査を中心に実施する予定であるが、広く日本全国の事例を調査する計画である。 以上の研究成果を、学術論文や専門書籍、または学会報告等によって、次年度(2022年度)および次々年度(2023年度)に広く社会に公表する計画である。特に、次年度(2022年度)に研究が順調に進めば、学術論文の執筆および専門書籍の刊行などによって社会に還元したいと考える。
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Causes of Carryover |
まず「旅費」に関して、2021年度も新型コロナウイルス感染症の影響により、出張が制限されたこと、また学会等のほぼすべてがオンラインで実施されたこと、さらにオンラインによるインタビューを実施したことなどにより、当初予定していた金額(65万円)のほとんどを使用することができなかった。またそれに伴い謝金や雑費等も予定額を下回る使用金額となった。そのため次年度使用額が生じた。 次年度(2022年度)は、出張の制限が緩和されるので、多くの調査出張を行い、本研究の調査対象としている「創発的コラボレーション基盤の構築・マネジメント」に関連する事例の収集にあたりたいと考えている。本務校(長野県)の近隣地域を中心とするが、全国の該当事例を調査する計画である。また、対面による開催が予定されている学会も複数あるので、その出張旅費も必要になる。 また「その他」として、学術論文および伝統産業関連資料の文献複写やアンケート調査に係る通信費を予定していたが、2021年度もアンケート調査を実施することができず、あまり金額を使用することができなかった。次年度(2022年度)はアンケート調査を実施する予定をしており、かつ現地調査での文献複写費用もかかると想定されるので、より多くの金額を使用する計画である。
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