2022 Fiscal Year Research-status Report
伝統産業地域特性に応じた創発的コラボレーション基盤の構築・マネジメント方法の確立
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20K01855
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Research Institution | The University of Nagano |
Principal Investigator |
東 俊之 長野県立大学, グローバルマネジメント学部, 准教授 (20465488)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮下 清 長野県立大学, グローバルマネジメント学部, 教授 (50239399)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 伝統産業産地域 / 協働(コレボレーション) / 地域協働 / 産地組合 / 地域アイデンティティ / 学習の場 / コラボレーション基盤 / オープンファクトリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、創発的コラボレーション基盤の構築・マネジメント方法に関連する事例調査を中心に研究を進めた。まず、これまでに引き続き、伝統産業地域におけるオープンファクトリー(OF)イベントの調査研究を進めるとともに、研究代表者の所属機関所在地である長野県内の複数の伝統産業地域における協働について調査を行った。前者のOFイベントは十分な追加調査ができなかったが、後者の長野県内伝統産業地域の協働については学会報告(2022年12月)および共著『信州に学ぶ地域イノベーション』(2023年5月上梓予定)によって発表した。その中で、①「協働」と「競争」のスパイラルアップが不可欠であること、また②産地組合等が中心となって他組織との関係を結びながら「学習の場」を提供することが求められることを言及した。なお、地域協働論を再整理し、OFイベントおよび長野県内伝統産業地域の事例の一部をまとめたものを、紀要論文(2023年3月発行)として発表した。 また、昨年度検討した①伝統産業従事者が緩やかに繋がる「ソーシャルキャピタル型ネットワーク」と、②プロデューサー的主体がハブとなって伝統産業従事者を束ねていく「ハブ・アンド・スポーク型ネットワーク」という伝統産業地域における2種類のネットワークについて、「学習」という観点から再検討を行った。その結果、産地組合等が核となり他組織(組合加盟組織や関連組織)との関係を構築し(=ハブ・アンド・スポーク型ネットワークの構築)、その後伝統産業地域内のアクター間に信頼関係が形成されていくこと(=ソーシャルキャピタル型ネットワークの形成)が不可欠であり、さらに、これらネットワーク形成により、「地域のアイデンティティ」および「地域に対する個人のアイデンティティ」が高められる、と仮説提示的に検討している。さらなる事例分析を行い、来年度中に学会発表し論文にまとめる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度も昨年度と同様に、新型コロナウイルス感染症の影響による出張制限が一部続いていたこと、また本務校での学務業務・教育業務が想定以上に多忙であったため、当初の研究計画よりも若干の遅れが生じてしまった。 昨年度までの遅れを取り戻すべく、また当初予定では本年度が研究最終年度であったこともあり、実証研究を多く実施する予定であった。長野県内の伝統産業地域に関しては、6か所訪問して調査を行い、ある程度の研究成果をあげられたものの、当初計画していた他府県への調査出張があまり行えず、特にオープンファクトリー・イベントへの調査が十分に行えなかった。また、「協働」と「競争」のスパイラルアップ・モデルを提起できたことは一つの成果であるが、地域特性との関連からは十分に検討できておらず、モデルを精緻にしていく必要がある。そのため、追加の事例調査が不可欠であると考えている。 さらに、理論研究については、既存の組織間協働論および地域協働論、また産業集積論(産業クラスター論)を一通りまとめ紀要論文として発表できたが、越境学習論や拡張的学習論、ソーシャルキャピタル論などについては考察を進めているものの成果につながらなかった。くわえて、実証研究を進める中で、産地組合(協同組合など)の制度と機能についての理解が不可欠であることを実感し、文献収集を行ったが十分に検討することができていない。 以上のように、実証研究および理論研究の両方で若干の遅れが生じていると考えられる。そのため、本研究期間の延長を申し出た。
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Strategy for Future Research Activity |
延長を申請した結果、次年度(2023年度)が最終年度となるので、現在考えられるいくつかの研究課題に取り組み、「伝統産業地域特性に応じた創発的コラボレーション基盤の構築・マネジメント方法」のコンセプトを明確に打ち出したい。 そのため、まず伝統産業産地における産地組合等の制度や機能を明らかにし、ネットワーク構築・維持に果たすための役割を検討する。さらに伝統産業地域の特性を再度検討し、伝統的工芸品産業地域の分類を精緻にしたいと考えている。くわえて伝統産業地域内の「協働と競争」が、地域特性ごとにどのような差異があるのかを深く考察する。最後に「学習の場」の視点を踏まえて、創発的コラボレーションの構築・マネジメントの方法(モデル)を検討していく予定である。 そこで次年度(2023年度)は、これまで以上に本研究課題に資する事例の収集を行いたいと考えている(対象:15~20程度)。本務校での学務等の関係で近隣地域を中心にインタビュー調査やフィールドワークを実施する予定であるが、幅広く全国の伝統産業地域の事例を対象としていく予定である。ただし、これまでの予備的調査では十分な先行事例が見つからない可能性があるため、関連する諸分野(産業クラスター等)の事例を合わせて収集すること、またアンケート調査を実施してデータを収集することで理論を精緻にしていきたい。 さらに理論研究では、学習に関する諸理論(組織間学習論、拡張的学習や越境学習論等)や、信頼に関する諸理論(ソーシャルキャピタル論や組織間信頼論等)の先行研究を今一度検討し、伝統産業地域における「学習の場」および「ネットワーク」の構築・維持に必要な要件を検討していきたいと考えている。 これらの研究成果を、学術論文や専門書籍、または学会報告等によって、次年度(2023年度)および次々年度(2024年度)に広く社会に公表する計画である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による一部出張制限と他業務多忙によって調査旅行にあまり出かけられなかった。また書籍の分担執筆のために比較的近場(長野県内)の伝統的工芸品産地での調査が今年度の中心であったため、旅費が想定よりも少なくなった。さらに学会等も引き続きオンライン開催が多かったために出張旅費があまりかからなかった。また関連する文献の収集等は、すでに十分行えており、追加で書籍等を購入する必要性があまりなかった。そのために、当初の使用予定金額を大幅に下回る支出となった。 次年度(2023年度)は、数多くの出張(実地調査および学会参加)を予定しており、かつアンケート調査等で多くの費用が必要になるものと思われる。具体的に次年度使用額(約195万円)の内訳として、これまであまり使用できなかった旅費に120万円程度、物品に55万円程度、人件費・謝金に10万円程度、その他(文書通信費、コピー代等)に10万円程度、使用する計画である。
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Research Products
(5 results)