2023 Fiscal Year Research-status Report
伝統産業地域特性に応じた創発的コラボレーション基盤の構築・マネジメント方法の確立
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20K01855
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Research Institution | The University of Nagano |
Principal Investigator |
東 俊之 長野県立大学, グローバルマネジメント学部, 准教授 (20465488)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮下 清 長野県立大学, グローバルマネジメント学部, 教授 (50239399)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 伝統産業産地域 / 協働(コラボレーション) / 地域協働 / 協働学習 / 学習の場 / コラボレーション基盤 / クラフト・ツーリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度(2023年度)は昨年度に引き続き、事例調査を中心に創発的コラボレーション基盤の構築・マネジメント方法に関連するモデル化の検討を行った。 まず、これまでより継続している長野県内の伝統産業地域における協働の調査を行った。主として雑誌記事等の2次資料によって深く検討し、長野県飯田市など一部伝統産業地域では新規にインタビュー調査を実施した。また関連する分野についても調査を実施し、長野県内の他の産業集積地の調査や地方大学の地域連携に関する調査も行った。こうした調査内容については、2023年6月の学会報告(研究代表者)、および2023年12月の学会報告ならびに2024年3月の紀要論文(研究分担者)で発表している。 また昨年度仮説的に提示した、①「協働」と「競争」のスパイラルアップ、および②産地組合等が中心となる「協働学習の場」の提供の必要性について深く検討すべく、追加調査を実施した。佐賀県有田町、長崎県波佐見町、福井県越前市等の伝統産業産地を調査した結果、伝統産業従事者ならびに関係者が緩やかに繋がった「ソーシャルキャピタル型ネットワーク」の中に、「学習する場」を組み込むことが重要であるという見解に至った。ただし、各事例からは自然発生的に緩やかな繋がりが生まれることは難しく、核となる組織や団体、あるいは個人(リーダー)が不可欠であることも明らかになってきた。こうした研究成果は、2024年6月に研究代表者が学会報告し、その後論文としてまとめる予定である。 さらに上記の調査から、伝統産業地域の個性やアイデンティティを「物語」として語れることが重要であり、そのことが伝統産業だけでなく観光業につながって地域全体の活性化が可能になると示唆された。このようないわゆる「クラフト・ツーリズム」は、今後伝統産業地域の活性化には不可欠である視点と考えられるので、深く考察していきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本務校での学務業務および教育業務が多忙であったこと、また家族の病気等があり、十分な研究時間が確保できなかった。くわえて、新型コロナウイルス感染症による出張制限等が影響したため昨年度までに十分な研究調査が進められておらず、今年度も研究の遅れを挽回するまでには至らなかった。 また当初の予定では、これまでの遅れを取り戻すべく夏期休暇中に多くの調査出張を予定していたが、業務多忙であったこと、また先方との都合が合わなかったこともあり、あまり伝統産業地域において現地調査が進まなかった。くわえて、数件のインタビュー調査をもとにアンケート調査を実施し、各伝統産業地域における地域協働の現状と課題ならびに地域特性を調査する予定であったが、十分なインタビュー調査ができなかったこともあり、質問項目は検討したもののアンケートの実施には至らなかった。そして、産地組合の役割についても文献等によって検討を進めていたが十分な実証研究ができず、研究成果を導き出すことができなかった。 さらに理論研究では、ソーシャルキャピタル論や地域ネットワーク論、越境学習や拡張的学習論といった関連する諸理論のレビューし、事例と関連させながら深化させる予定であったが、十分に精緻化できているとは言い難い状況である。そして実証研究をする中で「クラフト・ツーリズム」など本研究課題と関連する分野の追加の理論研究も不可欠であると認識するようになっている。 以上のように、実証研究・理論研究の両方で追加の調査が必要であると考えられるため、やや研究に遅れが生じていると認識している。そのため、本研究期間の再延長を申し出た。
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Strategy for Future Research Activity |
再度延長を申請し、次年度(2024年度)が最終年度となるので、本研究の主テーマである「伝統産業地域特性に応じた創発的コラボレーション基盤の構築・マネジメント方法」のモデル構築が次年度の研究目標である。 そこで、これまで進めてきた研究課題を統合していくことが必要であると考える。まず、アンケート調査等によって各伝統産業地域における「協働と競争」の有様をさらに精緻に検討していく。そのうえで、「ソーシャルキャピタル型」「ハブ・アンド・スポーク型」という2つの伝統産業地域の協働ネットワークモデルを再検討し、どのようなネットワークを構築することが必要か地域特性の違いから明らかにする。さらに「協働学習の場」を地域ネットワークにどのように埋め込むかを考察することで、「創発的コラボレーション基盤の構築・マネジメント方法」のコンセプトを打ち出したいと考えている。くわえて、地域ネットワークの核となりうる産地組合の機能や役割、また伝統産業地域におけるクラフト・ツーリズム等の関連分野の研究も継続したい。 そして具体的な研究方法として、多くの伝統産業地域への詳細な質的調査を主として実施する。これまで十分に分析しきれていない地域に対し、追加のフィールド調査やインタビュー調査を行う。また必要に応じて、新たな地域も調査対象に加えたい。一方、伝統産業地域のみの調査では限界があり、他分野と比較検討することも不可欠である。そこで、長野県内の他産業の産業集積地等の調査、関連する組織等の調査も実施する。さらに仮説提示だけでなく、仮説を検証することも必要だと考えており、アンケート調査等によって収集したデータを分析することでより理論を精緻にしたい。くわえて、理論研究も抜かりなく実施する。 こうした研究成果を、2024年度および2025年度中に学術論文や専門書籍、学会報告等により発表し、広く社会に還元する予定である。
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Causes of Carryover |
当初は多くの調査出張の計画を立てていたが、他業務が多忙であったこと、また先方との調整がつかなかったことなどにより、当初予定よりも調査出張が減ってしまった。くわえて近隣地域での調査を深めたため、あまり予算がかからなかった。また、さらに学会への出張も本務校業務などで参加できないことがあった。 物品については、新たに地域経営や産業集積に関する書籍の購入などを進めることができたが、すでに所有している書籍も多く、かつ大学図書館にて閲覧できる書籍も多かったので、それほど多く支出する必要がなかった。以上により、当初の予定金額よりも大幅に少ない支出額となってしまった。 次年度(2024年度)は最終年度であり、これまでの研究内容をより精緻にする必要がある。そこで、様々な伝統産業地域において複数回のフィールド調査等を実施する予定であり、これまでよりも多くの出張旅費を使用する計画である(年間55万円程度)。また研究成果を学会等で学術報告する予定もあり、そのための出張旅費も必要である(25万円程度)。さらに、追加の書籍や必要機材などの物品購入も不可欠である(年間30万円程度)。くわえて、論文複写や報告用資料の印刷費等のその他の費用も発生すると考えられ(年間5万円程度)、場合によっては調査の際に人件費が発生することも想定される(年間10万円程度)。以上のように、次年度は残金を使用する予定である。
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Research Products
(5 results)