2021 Fiscal Year Research-status Report
多文化共生と排外主義の関係性とその帰結:日豪比較を通じた理論化に向けて
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20K02070
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
塩原 良和 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (80411693)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 多文化主義 / 多文化共生 / 排外主義 / 移民・外国人 / オーストラリア / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、民族・文化的マイノリティへの排外主義を抑制するうえでの、多文化共生/多文化主義の公式理念や施策のもつ有効性と限界を明らかにし、多文化共生/多文化主義と排外主義の関係性を分析する新たな理論的視座を提起する。そのために、日豪において公的文書等の定量的なテキストマイニングと定性的な言説分析、施策の現場における関係者への聞き取りや参与観察といった手法を用いてデータを収集し、その日豪比較分析を通じた理論化を試みる。 2021年度もコロナ禍のなかで、現地調査計画の縮小を余儀なくされた。それゆえ20年度に行った日本政府・自治体の文書資料収集をもとに分析を進め、国内・国際学会で報告を行った。その成果をもとに、現在英語で論文を執筆しており、22年度前半には国際学会誌に投稿予定である。また、2019年度に実施したオーストラリアの日系家族の実態調査のデータをもとに英語で論文を執筆し、既に国際学術雑誌に投稿し、現在査読結果を待っている状態である。 予定していた横浜市・川崎市での調査については、現地の外国人住民支援NPO等とのコンタクトを維持し、無理のない範囲で支援活動に参加したり、学生を通じてフィールド記録を収集するなどして、情報収集に努めた。 さらに、オーストラリアの人類学者Ghassan Hageの著作の翻訳作業を進めた。監訳者として共訳者の訳稿を編集し、より完成度の高い文章に修正した。邦訳はほぼ完成し、22年度前半に刊行予定である。 このように、コロナ禍による制約が大きかったものの、そのなかで一定程度の研究を進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」欄に記入したとおり、コロナ禍のために、主に対面で行う予定であった現地調査については延期を余儀なくされた。しかしその代わりに、19年度の調査成果をもとに論文を執筆、投稿し、また20年度に収集した文書・テキストデータをもとに学会報告や論文執筆を行った。さらにオーストラリアの人類学者の重要な著作の邦訳作業にも、刊行のメドを立てることができた。以上の理由から、研究はおおむね順調に推移していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、前年度までに実施できなかったオーストラリアでの調査を実施する。移民人口が集中する大都市シドニーとメルボルンで各1週間程度、行政職員等への聞き取りや資料収集を行い、オーストラリア連邦・州政府の近年の多文化主義理念の変化が実際の施策に与えた影響を調査する。またキャンベラにも1週間ほど滞在し、国立図書館を中心に文書資料収集を行う。そして、これらの成果をもとに日豪比較を行う。現在、2022年5月のシドニー訪問に向けた準備を進めている。 また、日本の外国人住民支援に関わる全国の実務家の有力なネットワークである「多文化社会専門職機構」の設立経緯や理念・活動内容を関係者への聞き取りによって調査し、多文化共生や排外主義の論理との関係性を分析する。聞き取りは状況に応じてオンラインまたは対面で実施する。 これらと並行して、20年度、21年度にコロナ禍のために実施できなかった横浜市・川崎市での聞き取り調査やそれ以外の外国人集住自治体に関する調査も、可能な限り実施していく。
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Causes of Carryover |
当初予定していた国内外での現地調査ができなかったため。22年度に、21年度実施予定であった内容を含めた追加の現地調査を実施する予定である。
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