2022 Fiscal Year Research-status Report
離島交通に関する非市場的価値の評価と住民の意識構造に関する研究
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20K02090
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Research Institution | The University of Shimane |
Principal Investigator |
西藤 真一 島根県立大学, 地域政策学部, 教授 (00581117)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小熊 仁 高崎経済大学, 地域政策学部, 准教授 (00634312)
福田 晴仁 桃山学院大学, 経営学部, 教授 (70508887)
引頭 雄一 関西外国語大学, 外国語学部, 教授 (90636945)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | CVM / 価値評価 / 支払い意思額 / アンケート / 旅行 / ワーケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は第1に前年度に配布したアンケートを集計・分析し、日本交通学会にて報告し同学会誌への掲載が決定した。アンケートの対象は、沖縄県にある多良間島、波照間島、伊平屋島の3つだが、これらは 航空路線の存在に関して特徴がある。すなわち、多良間島は従来から定期便が就航しているが、波照間島は空港こそ存在するものの定期便はなく、現在その復活に向けた機運が高まっている。また、伊平屋島についてはそもそも空港が存在しない。つまり、ここでは航空路線の存在に関して各島の置かれる条件が異なるものととらえ、分析を行った。 結果、これらの島ではおしなべて年間約40~80万円の経済的な価値を見出していることが判明した。ただ、島の立地条件の違いと相応してその価値を構成する要素には特徴も把握できた。すなわち、航空路線が実際に存在している地域、空港はあるが航空路線が廃止された地域、空港も存在しない地域の順に、自分がその空港を利用することの価値を高く評価していることが判明した。 第2は、コロナ禍で傷ついた移動・旅行について、消費者意識の構造について調査・分析し、国際公共経済学会にて報告した。具体的には、旅行やワーケーションに行きたいと思う意識はどのような背景をもとに醸成されるのか、社会心理学の分野で活用される「計画行動論」に基づく共分散構造分析を適用した。 旅行・ワーケーションに対する意欲がどのように形成されるのか、その意識構造の分析から、おもに年齢区分によって構造が異なり、それはおもにコロナ回避意識をめぐる意識であることが示唆された。特に、旅行について若年層ではコロナ回避意識が高まれば旅行そのものへの態度にも影響を及ぼし、それが旅行行動に結び付く要因となるが、ベテラン層ではコロナ回避意識の高まりが有意に旅行意欲を抑制する要因となっていたことがわかった。なおこの結果はワーケーションでも概ね同様である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は一昨年の調査遅れを挽回すべく作業に取り掛かった。第1に、前年度沖縄県下の離島住民を対象配布したアンケートを集計・分析した。前年にアンケートの回収までは行なっていたため、あとは入手したデータを整理し、分析する作業に時間を充当した。この分析作業は比較的順調に進み一定の成果を得られ、日本交通学会で報告したのち学会の査読論文として投稿し、年度末に掲載が決定した。 第2は、コロナ禍を受けた人々の旅行・ワーケーションに関する意識構造の分析に取り組んだ。当プロジェクトの申請時には離島航空路線そのものを対象とするとしていたが、採択後の世の中はコロナ禍により大きく変化した。航空需要はコロナ禍で大きく傷ついたが、その需要を支える人々の旅行・ワーケーションに対する動機を決定づけるその背景を探ることはこの科研プロジェクトにとっても重要な貢献ができるものと考えた。 他方、その調査では「なぜ人々は航空路線を大切に思うのか」、その背景を十分裏付けるには至っていない。残された年度においては、その裏付けのために必要となるヒアリングや、追加でのアンケート調査を行いたい。 このように若干課題が残されているのは、代表者が大学を異動することになり、その異動に伴う手続きや準備に追われたためでもある。とはいえ、全体としては経済価値の評価、および価値構成の構造などに踏み込んで成果を出せている。このように、全体プロジェクトとしては「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は前年度にデータを取得していたためおおむね順調に研究を遂行できた。ただし分析でさらに明らかにすべき課題もある。つまり、今年度の分析では航空路線の経済価値の総額とその構成までは把握できたが、その価値が醸成されるまでの人々の意識的な背景について、より精緻に把握する必要がある。 具体的には、航空路線を維持・活性化したいと思う地域の人々の意識構造の分析である。再度、アンケートを実施し、「共分散構造分析」の手法により、航空路線に対して抱く意識を構成する要因間の因果構造を解明する。その際、人々の生活環境や属性、他の交通機関の選択可能性など社会的な環境との相互関係を踏まえた調査設計にしたい。 実態に即したアンケートを制作するためにも、まずはヒアリングを実施して地域に住む人々の生活環境をくわしく把握する。なお、これは今年度調査した沖縄県に限ることなく広く交通不便な地域における分析を考えたい。 この研究プロジェクトは2020年にコロナ禍で1年遅れを期すこととなったが、2022年度はほぼ順調に計画を遂行できた。とはいえ、研究代表者が2023年度に大学を異動することになり、その準備のために時間を取られてしまったため、若干残された課題がある。ヒアリングは大学の夏休み、追加でのアンケートの制作・配布は秋ごろに行ない、集計・分析を行うというややタイトなスケジュールになりそうである。
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Causes of Carryover |
2022年度は昨年度までに滞っていた作業を再開し、おおむね順調に作業が進行した。そのため、2022年度予算はほぼ予定通りに消化できた。他方、当プロジェクトが採択された直後1年目にコロナ禍に見舞われ、その際の調査・作業が滞り、そのため次年度使用額が生じている。 具体的に、1年目には各地でのヒアリングを実施予定であったが、これが滞ったことが大きな原因である。2年目にはアンケートを送付するとともに、ヒアリング調査のため対馬市に出張した。3年目となる2022年度は前年度に送付したアンケート調査に基づく分析結果を公表した。 延長申請により予算を繰り越した2023年度は、一連のプロジェクトの仕上げを進めたい。具体的にはいくつかの地域でヒアリングを行うとともに、追加のアンケート調査を実施し、2022年度で得られた成果を補完する。残額はそれらのために使用予定である。
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