2020 Fiscal Year Research-status Report
相互行為における行為の構成――原発避難地域における日常活動の基盤
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20K02131
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
西阪 仰 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (80208173)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
早野 薫 日本女子大学, 文学部, 准教授 (20647143)
小宮 友根 東北学院大学, 経済学部, 准教授 (40714001)
黒嶋 智美 玉川大学, ELFセンター, 助教 (50714002)
須永 将史 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (90783457)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 行為 / 知識 / 知覚 / 相互行為 / 会話分析 / 福島 / 原発避難 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,新型コロナ感染症の影響で,現地での調査は一切できなかった.2014年から前年度まで定点観測を行なってきた福島県内の原発避難帰還地域の住民グループもしばらく活動を停止していた.活動再開後は,機器を送り,可能な範囲でのビデオ撮影をお願いした.本年度の主たる知見は以下の通りである.1) 一方の相互行為参加者が特定の行為を,一般的な知識もしくはその場で得られた知識に基づいて構成することに対して,他方の相互行為参加者が自らの行為を,あえていま自分が見ていることに基づかせることで,抵抗を示す事例が見出された.そこから,ある対象について知っていることといま見ることとの間の区別は,相互行為参加者自身の問題である可能性が示唆された.2) 原発避難からの帰還地域においては,放射線量の「高さ」が日常生活を営む上で依然問題となっている.上記の住民グループにおいて,住民たちが放射線量の高さを、自分たちの(とくに子どもを巻き込む)活動の実行可能性の問題として捉えていることが,線量の「高さ」を問う質問の組み立ての分析を通して明らかになった.3) 多様な立場の参加者の集まる会合において,提案行為は,しばしば,聞き手たちの反応に合わせて徐々に組み立てらることがあった.その反応に依存して,その組み立ての軌道が修正されうることが見出された.4) かかりつけ医と患者とのやりとりを分析するなかで,検査結果を映し出すモニター画面が,医師の説明において重要な役割を担うことがあった.画面への関わり方の違い(その内容を読み上げるか,ただ見やるだけか,など)と,説明の構成の違いとが密接に関係していることが明らかとなった.これまでの知見を4章にまとめ,2つ目の中間報告として上記住民グループに送付することができた.研究協力者として高木竜輔(尚絅学院大学),小室允人(千葉大学),鈴木南音(千葉大学)の3名が加わった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は,新型コロナ感染症の影響で,新たなデータの収集がまったくできなかった.また,海外での会議はオンライン会議となり,そのため,調査旅費と学会旅費が多く,未執行のままとなった.所属機関の授業がすべてオンライン化したことへの対応で,分析も思うように進めることができなかった.研究チームによるデータの検討会も,会合自体はオンラインで何度か開催することができたが,プライバシーの露出度の高い(個人名を含め,様々な個人的事情が語られるような)データをオンラインで参加者が同時に参照することができず(インターネットを介してビデオデータが漏洩することを防ぐため),非常に限定的なものにならざるをえなかった.一方,アメリカ社会学会において,オンラインで2つの研究報告をすることができた.これまで集めたデータの分析も一定程度進めることができた.前年度から行なっていた分析を完成させ,いくつかの論文が日本語雑誌および英文雑誌に採択された(研究業績欄を参照のこと).
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度も,新型コロナ感染症の厳しい状況のなかで始まり,データ収集再開のめどはたっていない.また,所属機関における授業も,対面とオンラインの併用となり,また新たなオンラインシステムが導入されるなど,新たな対応を迫られ,思うように研究に時間を割くのが困難な状況が続いている.そのなかで,当面は,調査旅費として未執行のまま繰り越した予算を,研究補助のめたの人件費として用い,これまで集めたデータを集中的に,整理・分析していきたい.研究実績の概要で述べた知見を論文としてまとめることを目指す.その知見のいくつかについては,オンライン開催の学会で,研究報告の予定もある.引き続き検討するべき分析的課題として,現時点では以下のものがある.1) 知識と行為の関係を考えるとき,知識のタイプが異なれば(教えられた知識と経験に基づく知識,あるいは常識のようないつのまにか身についている知識,など),それに基づく行為の組織はどのように変わるか(あるいは変わらないか).2) 視覚以外の知覚と行為の組織はどのようなの関係にあるか.3) 私たちは,対象や出来事に対して,知覚や知識とは異なる関係することがあるように思う.ある事柄(例えば自分の名前など)は,知識や知覚の対象であるよりも,自分の生活/人生の一部となっている.対象や出来ことに対するこのような関係は,行為の組織とどのようにかかわっているか.これらの一般的な問いを,データの検討をとおして,できるだけ個別化し,具体的な成果につなげていきたい.
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の影響のため,現地調査(福島県における原発避難から帰還地域での調査)が一切できなかったため,調査旅費に相当する部分が,未執行となった.また,同じ理由で,海外の学会がオンラインになったため,海外出張旅費にも支出できなかった.2021年度においても,状況は同様と思われる.そのため,2021年度は,繰り越した分の多くを,研究補助のための人件費に充て,2014年以来,毎月(上記地域で)収集してきたデータのうち,未整理・未分析のものを,集中的に整理・分析する予定である.
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Research Products
(8 results)