2021 Fiscal Year Research-status Report
相互行為における行為の構成――原発避難地域における日常活動の基盤
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20K02131
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
西阪 仰 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (80208173)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
早野 薫 日本女子大学, 文学部, 准教授 (20647143)
小宮 友根 東北学院大学, 経済学部, 准教授 (40714001)
黒嶋 智美 玉川大学, ELFセンター, 助教 (50714002)
須永 将史 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (90783457)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 行為 / 会話分析 / 相互行為 / 知覚 / 知識 / 順番交替 / 成田空港反対運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は,3つの研究成果が得られた. (1)行為タイプの区別(依頼か,示唆か,など),あるいはその下位タイプの区別(その場での変更を示唆しているのか,情報としての示唆を与えているのか,など)の区別と,知覚との関係について,前年度からの考察を引き継ぎ,論文として発表することができた.同じ言語形式を用いて示唆を行なうとしても,その示唆が知覚にもとづくものとして理解されるか,あるいは経験的知識にもとづくものとして理解されるかにより,どのような行為タイプとして,その発言が理解されるかが異なることを示した. (2)知覚や知識は,対象へ関係である.この対象への関係が,行為タイプの構成と関わっているという見通しを,上の研究から得たうえで,それを発言順番の交替に応用した研究を行なった.現在の話し手が次の話し手を選ぶ技法は,(イ) 反応を期待させるタイプの行為(隣接ペア第1成分)を,(ロ) 特定の聞き手に宛てるというやり方をとる.(ロ)の手法として,宛先表現や視線の使用,さらに人称代名詞の使い分けがある.このような宛先を明確化する手法により次の話し手が選択される場合でも,現在の話し手は,対象への非対称的関係を用いることで,宛先とは異なる聞き手を,現在の発話の標的とすることがあることを見出した.対象への非対称的関係が,行為の構成のみならず,発言順番の割当てにおいても,強い効力を持つことを明らかにした. (3)記録映画『三里塚シリーズ』を制作した小川プロダクションが残した音源を用いて,議論の組み立てに関する研究を開始した.成田空港(新東京国際空港)建設に反対する農民たちの様々な局面における討論の記録を分析した.とくに,「相手の発言に言及する」というプラクティスに注目した.このような言及が用いられるときは,不同意を回避しながら異なる見解が提示されることを見出した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
データの収集については,新型コロナ感染症の影響で,2021年度も,福島県の原発避難からの帰還地域における調査は,まったくできなかった.2019年度まで毎月ビデオ収録していた住民の会議は,一部,住民自身にビデオ収録をお願いしたが,その内容については,まだ確認できていない.また,2021年度は,ヨーク大学のポール・ドリュー(Paul Drew)教授を招聘してのワークショップも企画したが(教授本人からも快諾をいただいていた),新型コロナ感染症の収束の見通しが立たず,断念せざるをえなかった.一方,今年度から採用された長野大学の相川陽一教授が代表を務める科研費研究(課題番号21H00569)との共同の資料整理として,小川プロダクションの残した未公開の音源の一部を整理することができた.「空と大地の歴史館」に所蔵された未公開音源に特別にアクセスする許可を得て,研究代表者のほか,研究分担者3名,研究協力者1名で4日間かけ,4つの討論部分を,編集された形から元の形に復元した.当該部分の音声は,会話分析の転記システムをもちいて詳細に書きとった.「研究実績概要」欄における(3)の研究は,この資料整理にもとづいている. 研究の成果としては,「研究実績概要」欄の(1)の研究については,投稿論文としたまとめたものを,最終的にDiscourse Studies誌(Sage出版)に発表することができた.(2)については,論文としてまとめたものを投稿し,現在,審査結果にもとづき,修正中である.(3)については,2022年8月開催予定のアメリカ社会学会の年次大会に応募し,採択された. なお,本年度は,研究協力者として高木竜輔(尚絅学院大学),小室允人(千葉大学),三部光太郎(千葉大学),鈴木南音(千葉大学)の4名が加わっている.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,新型コロナ感染症の感染状況を見極めながら,福島県における調査(月例会議およびイベントのビデオ収録)が再開できることを期したい.また,小川プロダクションの未公開音源も多くが手付かずのまま残っているので,こちらも進めていく予定である. データの収集・整理とは,別に論文執筆も進める予定である.「研究実績概要」欄の(2)については,現在行なっている修正を完成させ,年度内の公表を目指す.(3)については,「空と大地の歴史館」をアメリカ社会学会での研究報告のまえに一度訪ね,資料の整理を行なう予定である.また,その研究報告は,論文としてまとめ,年度内の投稿を目指す.そのほか,新たなテーマのもとに既存のデータの分析も行なう.「研究実績概要」欄の(2)で触れた「対象への非対称的関係」は,これまでの(本研究課題が依拠する)会話分析(conversation analysis)の分野において議論されてきた,対象に関する知識や対象にまつわる責務関係の議論を統合するための概念となりうると展望している.この概念を実際のデータ分析において活用しながら,行為とかかわりのある多様な領域での分析を進める.また,発言順番の割当てにおいて固有名がどう機能しているのかなど,上の(2)の研究では詰め切れなかった課題もある.これらについて進められるところまで進めていきたい.さらに加えて,現在,会話分析の方法論に関する原稿も執筆中である.これもできるだけ早い時期に完成させるとともに,この過程で整理された方法論を今後の研究に積極的に活かしていきたい.2023年は,新型コロナ感染症の影響で延期になっていた会話分析の国際会議が開催予定である.2023年度にこの学会とアメリカ社会学会の2つの学会で研究報告ができるよう,2022年度は準備していく予定である.
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Causes of Carryover |
当初,予算の大部分は,(1)福島県における原発避難からの帰還地域への毎月の調査出張,(2)アメリカ社会学会での研究報告,(3)海外からの研究者の招聘に充てられる予定だった.しかし,新型コロナ感染症の影響で,学会も2020年,2021年と続けてオンライン開催となり,また調査出張,招聘は,不可能となった.そのため,多くの予算が未執行のまま残ることになった.2022年度は,アメリカでの学会等は対面で行なわれる予定である.採択済みのアメリカ社会学会での発表および,テキサス大学のシンポジウムにおける(視覚・触覚と行為に関する)研究報告のために,多くの海外出張旅費が必要となる.また,昨年度から継続している論文執筆が多くあるため,その分,英文校閲のためにも経費を多く使用する予定である.未整理のデータをこの機会にできるだけ多く整理するため,専門知識をもつ研究者の雇用に経費を使用する予定である.
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Research Products
(4 results)