2021 Fiscal Year Research-status Report
欧米農学導入期における札幌農学校および駒場農学校の総合的研究
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20K02494
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
熊澤 恵里子 東京農業大学, その他部局等, 教授 (90328542)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ジェンダー / 獣医学 / 女性獣医 / 小動物 / 駒場農学校 / ヤンソン / 田宮リウ / 札幌農学校 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度もコロナ禍により国外調査は実施せず、国内調査のみとなった。データベース活用により、国内外の資料検索及び収集を継続的に行った。また、初年度は札幌農学校と駒場農学校の学統の共通性について農芸化学を中心に検討したが、2021年度は獣医学まで視野を広げ、結果的に学統研究の解明につながる両校の相違点を見出した。それは農芸化学の学統研究でも指摘したように、学問の専門性及びカリキュラムに係るもので、その根本は御雇教師の専門性と教授科目のバランスにあると考えられる。 日本の近代獣医学及び近代獣医の発達過程において、獣医学実習を担う病畜病院の設置が必須であるにもかかわらず、札幌農学校で積極的な対応がなされたとはいえない。その理由が政治的なものか、地域社会的なものかについてはさらなる実証的研究を要するが、少なくとも御雇教師が講じた獣医学は獣医開業試験に相当するものではなかった。明治23年10月には、獣医生がいない等の理由から病畜治療所は廃止されている。 他方、駒場農学校は獣医学科設立当初から博士号を有した英人御雇教師が教授を行った。獣畜の伝染病については、食肉や牛乳を媒介としてヒトにも影響を及ぼす恐れがあるため、全国的な予防策と衛生管理が求められ、駒場農学校獣医学科卒業生はそのほとんどが全国各地に派遣され、採用された。近代獣医養成が急務とされ、国家資格として組織化が進むなか、第1回獣医開業試験に女性の受験を認めるかどうかが議論された。獣医学科教員は試験に合格すれば女性獣医も認めるという結論を出した。容認の趣旨は、女性は犬猫等小動物の治療に当たるというものであった。その後まもなく開業試験科目が厳格化し、獣医も学士または獣医学修了者へ移行して女性獣医養成は後退したが、明治19年の女性獣医誕生の容認は先駆的である。 新史料発掘による研究成果は科学史学会で発表し、ブックレット版で刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度に引き続きコロナ禍により、2021年度も国外出張が実施できなかったため、予定していた米国、独国を中心とした現地調査の実施を2022年度に延期し、かわりに、国外については、データベースなどにより収集できうる資料についてアクセスおよびダウンロードを行い、カラー印刷によるプリントアウトを実施した。したがって、2021年度の現地調査は、国内を中心に行った。国内調査は「農芸化学」については札幌農学校御雇教師の関連資料のデータベースにアクセスし、書簡資料を中心に収集作業を行った。 2020年度の調査をまとめた研究成果について2021年度前半に発表し、さらに調査を加えて2021年度後半に刊行した。研究の進捗状況はおおむね順調に進行している。すなわち、欧米農学導入期に目覚ましい発展を遂げた獣医学に関連して、新たに発掘した史料をベースに、女性獣医誕生に関する駒場農学校獣医学科教員らによる討議について、「日本初の女性獣医誕生計画」と題して日本科学史学会第68回年会一般講演で発表した。発表内容は、2022年3月に一般向けに解説した図書、『幻の女性獣医誕生計画―近代日本の獣医養成史―』(東京農業大学出版会)として刊行した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度はコロナ禍に加えて、ウクライナ情勢ならびに極端な円安の影響もあり、国外調査の実施については、いまだ流動的な状況であるが、9月あるいは遅くとも2023年2月、3月には米国、独国における調査を実施したい。2022年9月には国際学会での発表を予定している。 国内資料については、札幌農学校についてすでに収集した英文資料について解読、検討を行う。加えて、データベース化されていない簿冊類の閲覧、検討を予定している。 札幌農学校と駒場農学校の学統研究については「農芸化学」を中心に検討しているが、これに「獣医学」ならびに「農学」も加え、総合的な学統研究としての位置づけを行う予定である。
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Causes of Carryover |
2021年度に国外調査を予定していたが、コロナ禍により中止となったため、次年度使用額が生じた。2022年度はコロナも収束しつつあるため、国外調査は実施する予定であり、本年度請求した助成金と合わせて、米国、独国の現地調査の旅費ならびに札幌農学校関係資料調査の国内旅費として、使用する予定である。
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Remarks |
『東京農業大学教職課程Annual Report令和4年度版』(第8号)8頁に掲載。
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