2021 Fiscal Year Research-status Report
地方における新制中学校の設立・展開過程と地域社会の関係構造に関する歴史的研究
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20K02504
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
高瀬 雅弘 弘前大学, 教育学部, 教授 (20447113)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 元 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任教授 (60225050)
福島 裕敏 弘前大学, 教育学部, 教授 (40400121)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 新制中学校 / 地域社会 / 学校経験 / オーラルヒストリー / 教育人口動態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、新制中学校の設立・展開過程と、地域社会や地域文化との相互関係を捉え、地方から戦後日本の学校受容・利用のあり方を明らかにすることである。令和3年度の研究実績は以下のとおりである。 1.学校所蔵資料の調査:青森県西津軽郡鰺ヶ沢町において、中学校(1校)および小学校(2校)が所蔵する新制中学校成立期の資料調査を実施した。中学校においては学校沿革史等の公文書類を中心とした資料を調査・収集した。小学校においては学校文集等に綴られた進学・進路に関わる記述を抽出し、それらの収集を行った。 2.聞き取り調査:鰺ヶ沢町において、元中学校教員1名を対象に1950年代における学校での教育実践、学校と地域社会の関係、進路指導と実際の卒業生の進路状況に関する聞き取り調査を実施した。聞き取りの内容は書き起こし、データ化した。 3.データ分析:今年度は、西津軽郡のうち深浦町および鰺ヶ沢町の新制中学校を対象とし、学校沿革史、記念誌(学校および集落において刊行されたもの)を中心に学校成立時の学校受容の様態、とりわけ地域社会との関係構築における葛藤状況についての検討を行った。 4.研究成果の中間報告:上記3.のデータ分析に基づき、次のような点を明らかにした。①新制中学校成立過程においては、制度が先行し、施設や環境が未整備の状況のなかで、短期間のうちに分校設置と統合とが繰り返され、そこには地域社会のニーズに応えようとする姿勢と合理性の追求とが複雑に絡み合っていたこと、②新制中学校の設置にあたっては、「一村一校」という原則をめぐって、行政村と自然村のズレが表れるような葛藤状況が生じたこと、の2点である。これらはあくまでも限られた事例に基づく知見ではあるが、不確実性やゆらぎのなかでの学校建設のありようを示すものとして、本研究の中間報告として位置づけられるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度の研究計画に挙げた1.学校所蔵資料の調査、2.聞き取り調査、3.データ分析の3項目については、いずれも実施、作業を行っている。しかしながら令和3年度においても新型コロナウイルス感染症の影響により、延期もしくは中断を余儀なくされたものが存在する。 1.学校所蔵資料の調査については、青森県内の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、学校を訪問することが困難な状態が長期間に及んだ。時間的な制約によって、資料の所蔵確認は実施できたものの、整理作業やリスト化、複写作業などについては計画に沿って実施することができなかった。また、感染対策という観点から、作業協力者を十分に確保することもできなかった。しかしながら、資料を所蔵・管理する教育委員会ならびに学校と協議を行い、整理作業を含めた資料調査の実施方針についてこれまで以上の理解を得ることができたため、令和4年度における資料調査に向けた準備態勢は整っている。 2.聞き取り調査については、対象者はいずれも高齢者であり、新型コロナウイルス感染症の状況に配慮し、その多くを中止・延期せざるをえず、予定していた人数に対して実施することができなかった。ただし元教員の対象者の年齢が80~90歳代に及んでいることを考慮すると、当事者の健康に十分留意しつつ、できうる限りの情報収集を行う必要がある。 3.データ分析については、収集したものについては一定の成果を挙げることができたが、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置により研究分担者が現地調査や研究協議に参加することができなくなり、協同での作業を実施することができなかった。 以上のように、各作業ともに実施しているものの、計画の変更を余儀なくされたものも多く、進捗という点では遅れが生じている。遅れが生じているものについては、代替策の検討も行いながら進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である令和4年度は、以下のような観点から研究を進める。 1.学校資料調査:中学校の設立・展開の経緯を把握することを目的として、学校資料(沿革史等)の調査と収集を引き続き行う。これまで鰺ヶ沢町および深浦町の中学校が所蔵する資料の調査を行ってきたが、令和4年度は両町に加え、かつて西津軽郡に属していたつがる市のうち旧木造町・森田村の学校資料についても調査を実施する。 2.行政資料の調査と収集:対象町村の行政資料(役場文書・議会文書)について調査を行う。資料の保全に配慮しつつ、1940~50年代における新制中学校の設立・維持に関係する行政資料のリスト化と写真撮影によるデジタルデータ化を行う。 3.聞き取り調査と個人史資料の収集:教師の社会認識と学校づくりを探究することを目的として、元教員を対象としたライフヒストリーインタビューを引き続き実施する。併せて中学校経験の受け止め方を明らかにするために、元生徒を対象とした聞き取りを行う。ただし、新型コロナウイルス感染症の調査実施への影響も考えられることから、聞き取り調査の計画と実施に並行して、教師による回顧録や生徒文集、学校記念誌や地域の教育雑誌への寄稿文といった個人史資料を収集することで、調査が実施できない場合の対応策とする。 4.データ分析と研究の総括:令和3年度までに収集した各学校に関する文献、文書資料およびインタビューデータや個人史資料に基づき、それらから読み取れる諸特徴・傾向を地域社会の特性に配慮しながら類型化し、比較分析する。そのうえで新制中学校制度確立期から高度成長期にかけての青森県西津軽郡における「地域社会が学校を作っていく過程」と「学校が地域社会を作っていく過程」の相互関係を分析し、研究全体の成果を総括する。
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Causes of Carryover |
前年度からの新型コロナウイルス感染症拡大により、当該年度においても予定していた学校での資料収集調査と元教員・生徒を対象とした聞き取り調査を実施することができなかった。これにより調査にかかる旅費、テープ起こしや資料撮影作業にかかる人件費・謝金の所要額が当初の予定よりも少なくなり、次年度使用額が生じた。これについては次年度に実施する現地調査の旅費ならびに物品費(文献および資料購入費用)として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)