2021 Fiscal Year Research-status Report
Harvard Judisprudential Approach in Japan: Theory and Practice
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20K02787
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
渡部 竜也 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (10401449)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中原 朋生 環太平洋大学, 次世代教育学部, 教授 (30413511)
橋本 康弘 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(教員養成), 教授 (70346295)
三浦 朋子 亜細亜大学, 法学部, 准教授 (70586479)
中本 和彦 龍谷大学, 法学部, 准教授 (80513837)
古田 雄一 筑波大学, 人間系, 助教 (20791958)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 政治的論争問題 / 熟議民主主義 / 闘技民主主義 / 議論学習 / 法教育 / 法理学アプローチ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、法理学アプローチの日本社会での実用化を目的としており、その実現に向けて、その教材開発及び授業実践上の課題を浮き彫りにするため、高校4校(国立1、私立2、公立1)の4名、中学2校(公立2)の2名の計教師6名に法理学アプローチを用いた公的論争問題学習の教材開発及び授業実践を行ってもらい、計18の教室で約100時間分の授業を記録し分析し、その結果を踏まえて教材の再検討と再実践を行うことを研究方法としている。ただ、後述するように、コロナ禍で当初計画通り進まないうちに協力者の離職などもあり、研究方法のかなりの部分を変更せざるをえない状況にあるが、目的自体は変更がない。また、研究が進捗する中で以下に示す新たな検討課題も生じており、こちらに対処する研究も昨年後半から進めている。 現在、次の研究を進めている。(1)6人の教材開発及び授業実践の特質を明らかにし、その特質について、彼らの学習履歴や問題関心、及び彼らが埋め込まれている文脈との関係から説明する。また、法理学アプローチの教師、教科領域及び学力の差異への耐性がどこまであるのか検討する。(2)中学校や学力が低めの高校では、テーマによって議論が成立する場合としない場合があったので、こうした違いが生じた原因について追究する。(3)中学校の一部教室で法理学アプローチを用いることによる議論の混乱が見られたので、その原因を明らかにする。(4)比較的に学力の高い高校の一部教室で一部生徒による議論の支配や他生徒への論破が見られたので、その原因を明らかにする。(5)(2)から(4)の問題を克服する方法について、議論の方針(熟議か闘技か)、教師の指導法、生徒の議論に臨む姿勢、外部協力者(特に弁護士)との協力のあり方の4方面から検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
高校4校(国立1、私立2、公立1)の4名、中学2校(公立2)の2名の計教師6名に法理学アプローチを用いた公的論争問題学習の教材開発及び授業実践を行ってもらい、計18の教室で約100時間分の授業を記録した。授業の記録については、特に生徒たちの議論の箇所を中心に文字おこしを行い、それらは2022年3月末までにすべて修了した。こうした作業は2021年9月ごろまでに終わらせることが当初の予定であったが、コロナ禍によって計画は半年以上遅れてしまった。また、実践結果を分析して、教材の作り直して再実践をすることが当初予定されていたが、研究協力をして下さっていた教師のうち3名が大学教員になるなどの理由から2022年4月までに離職し、この部分の計画実行は難しい状況になった。 上の理由から計画の見直しが行われることになった。まず、6人の教材開発と授業実践を見直し、多くの場合、教材の完成度は高く、作り直しと再実践を特に必要としないとの結論を下した。むしろ、高校では地歴公全てにおいて法理学アプローチが行われたが、その領域特性に応じてアプローチが変形された様子が高校教師4人の実践からうかがえたので、その特質を解明することにした。また、生徒たちの学力に応じての実践上の変化も見られたので、そちらにも注目して特質を明らかにすることにした。また、中学での教材づくりや実践との比較も行うことにした。 さらに、授業実践の中で一部生徒による議論の支配と他生徒の論破という問題や、学力が中の下の学校や中学校でテーマによっては議論が成立しないという現実など、いつかの検討課題が見られたので、このことを踏まえて、前述の(1)から(5)を新しい研究として追加した。これらについては、現在約80%が分析完了、60%は原稿化しており、一部は学会発表、学会誌投稿を完了、一部掲載決定。今年度中に全てを終了できる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のようにやむを得ない理由から研究方法を一部変更したが、その分、新たな研究課題も設定し、データ収集と分析自体は順調に進みつつある。一部は法と教育学会(2021年9月)、社会系教科教育学会(2022年2月)で報告することができており、一部は学会誌投稿まで漕ぎ着け、また一部は掲載が決定している。また、本年度は報告書を完成させることが主な仕事となっているが、以下のような目次も設定できており、現在執筆を進めている。全体の50%が完成している。 第1部 理論編 第1章 オリバーらの開発した法理学アプローチについて 第2章 ハーバード社会科プロジェクトについて 第3章 現代の日本社会において何故法理学アプローチが必要となるのか 第4章 トゥールミンモデルから学ぶ 第5章 米国での法理学アプローチに向けられた批判と改善の方針:熟議的転換と理性的対話への批判の嵐の中で 第2部 実践編 第6章 中高での法理学アプローチの教材開発と授業実践の事例 第7章 一部生徒の論破と議論支配の問題とその対策:ある中学校教師のリヴォイシング行為に注目して 第8章 潤滑的な対話空間を生徒たちはどう築くのか:生徒たちの修辞的発言/行為に注目して 第9章 弁護士が法理学アプローチにもたらす可能性 第10章 他分野・他領域の法理学アプローチへの貢献 第11章 闘技的討論か、合意をめざす熟議か 終章 今後の課題:公的論争問題についての対話が成立しない教室への対策について
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Causes of Carryover |
コロナにより当初予定していた学校訪問調査が頻繁に行えなくなったこと、そもそも一部学校での法理学アプローチの実行自体が難しくなったことなどから、予算の全額執行が難しくなった。 余剰分の使用については、次の計画である。1:現在の研究及び今後の課題を検討するための作戦会議を東京で開催(旅費+宿泊費+会議費)。2:追加の学校訪問調査の実施(都内を予定:旅費)。3:記録の文字おこし(外部発注:謝金)。4:記録の分析(人件費)。5:資料・書籍の購入(物品費)。
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