2022 Fiscal Year Research-status Report
算数・数学科における評価者間信頼性のある「説明」の評価に関する研究
Project/Area Number |
20K02825
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
近藤 裕 奈良教育大学, 数学教育講座, 教授 (80551035)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
熊倉 啓之 静岡大学, 教育学部, 教授 (00377706)
下村 岳人 島根大学, 学術研究院教育学系, 講師 (90782508)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 算数 / 数学 / 説明 / 証明 / 評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,「説明」の自由記述を評価するための,評価者間信頼性のある評価の枠組みとその運用方法を開発し,それをもとに,学年集団としてみられる「説明」の能力の傾向を,調査及び授業実践に基づく検討を通して,事例と共に明らかにすることである. 申請書に記載の2022年度の研究実施計画は,「ワークショップ形式の調査を拡大して実施し,その結果の分析に基づき改善を加え,評価の枠組み及びその運用方法の確立を図る」こと,また,「蓄積してきたデータを基にして,学年集団としてみられる『説明』の能力の傾向を,事例と共に明らかにする」ことが主な内容であった.これまでの取り組みにより,「研究の目的」に掲げた内容のうち,「学年集団としてみられる『説明』の能力の傾向を,調査及び授業実践に基づく検討を通して,事例と共に明らかにすること」がより重要であることが見いだされ,取り組みの方向性を,「評価の枠組みを確定し,具体的に運用すること」から,「子どもの『説明・証明』の自由記述の特徴を,より詳細に把握すること」へと研究の焦点をシフトして検討を進めてきている. 昨年度に引き続き,奈良・東京・静岡・熊本・イギリスをオンライン形式でつなぎ,1回3時間程度の研究者会合を年度内に合計で7回,対面式で1回開催した.また,新たに小学校教諭1名に協力者に加わっていただき,協力者会合を2回開催した.また,子どもの実態をより詳細に把握するための新たな問題を開発し,小学校における授業実践を2校2クラスで実施した.また,年度末には,小・中学校(義務教育学校含む)3校の小学4年生から中学3年生を対象とする紙面調査を実施した. これらの取り組みを通して,子どもの「説明・証明」の自由記述の特徴および学年集団としてみられる「説明」の能力の傾向を一部明らかにすることができ,複数の論文で公にすることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,「説明」の自由記述を評価するための,評価者間信頼性のある評価の枠組みとその運用方法を開発し,それをもとに,学年集団としてみられる「説明」の能力の傾向を,調査及び授業実践に基づく検討を通して,事例と共に明らかにすることである.このうちの,後者にあたる子どもの実態をよく把握することが第一に重要であり,評価の枠組み設定と教室での具体的な運用は,その上で,それを運用する指導者の価値観等と照らして,教育上有意義となるように行わなければならない. これまでの取り組みで,子どもの「説明・証明」の自由記述が包含する様々な要素から,「自身の主張の妥当性を図形の性質に結びつけて示すこと」の観点を,教育上着眼する価値のある観点として抽出し,紙面調査や授業実践等を通して,その観点に関する小学校5年生から中学校3年生までの横断的な傾向を把握して,各学年が抱える課題や学習指導改善への示唆を見いだすことができた.あわせて,説明に用いる図形の性質の種類に応じた説明の記述の困難性の違いがある可能性があること,また,紙面調査として一人で説明の記述に取り組むときと,授業で他者と交流する機会がある中で説明の記述に取り組むときとの記述内容の違いや,その違いが生じる要因の考察等を行うことができた.さらに,説明の対象となる問題が平面図形か空間図形かで,問題によっては,説明方法に本質的な違いが生じることがあり,その場合の子どもの反応事例等を収集することができた.このような,子どもの実態把握を一層詳しく進めることが,本研究の目的の達成において,まずは重要であり,それを推進するための新たな調査問題を開発し,実施することができた. 以上の理由から,2022年度の研究の進捗を,総合して「おおむね順調に進展している」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
申請書に記載の本研究の目的は,「説明」の自由記述を評価するための,評価者間信頼性のある評価の枠組みとその運用方法を開発し,それをもとに,学年集団としてみられる「説明」の能力の傾向を,調査及び授業実践に基づく検討を通して,事例と共に明らかにすることであった.その研究の取り組みを進める中で,評価の枠組み設定と教室での具体的な運用は,それを運用する指導者の価値観等と照らして,教育上有意義となるように行わなければならないこと,そして,それに先んじて,子どもの実態をよく把握することが,第一に重要であることが顕在化した.そこで,申請書に記載した目的のうち,「学年集団としてみられる『説明』の能力の傾向を,調査及び授業実践に基づく検討を通して,事例と共に明らかにすること」に焦点を絞って,今後の取り組みを進めていく. 既に,昨年度末に,新たに開発した問題を含めて紙面調査と授業実践を実施済みである.まずは,それらのデータの整理と分析および考察を行う.その結果から,「説明に用いる図形の性質の種類に応じた説明の記述の困難性の違い」の有無,「他者意識が与える説明の記述への影響」,「説明の対象が空間図形の問題である場合の子どもが用いる説明の仕方の特徴」等が明らかになることが見込まれる.そこで得られた知見に基づく授業を計画し,研究協力者の小中学校教諭による授業実践を行い,より精緻に,子どもの「説明・証明」に関する実態を捉えていく. 会合については,引き続きオンライン会議システムを活用しつつ,再開され始めている各学会における対面式での議論を重ねながら取り組みを推進する.特に,今年度は,国際学会における研究発表を行い,より広い視点からの検討も行う.そして,これまでに引き続き,研究の成果を論文として公にしていくことを目指す.
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Causes of Carryover |
2022年度支出予定の経費は,研究分担者および研究協力者との全体会合のための旅費,国内学会および国際学会(PME45:スペイン)での研究発表のための旅費および参加費,紙面調査のデータ入力作業の謝金が主であった.なお,2022年度も,新型コロナウィルスに関する影響や懸念が引き続き大きかったため,国際学会(スペイン)への出張は見合わせた.また,国内学会についても,一部はオンライン開催となった.このため,それらに使用する予定であった旅費等は支出しなかった. 本研究にとって,研究メンバーらが一堂に会し,授業で児童生徒の生の動きを共有したり,学会での議論を共有したりすることが大きな研究の推進力である.是非,対面式での情報共有や議論の機会をできるだけ多く確保したい.例えば,2023年7月に予定されているイスラエルにおける国際学会(PME46)は対面式での開催が決定しており,研究代表者による研究発表もアクセプトされており参加する予定である.また,小中学校現場の協力者会合も複数回開催予定であり,そのための旅費等の必要経費が昨年度に比べて増加が見込まれる.さらに,紙面調査や授業実践も開始させており,そのデータ収集や入力の謝金や郵送費等,それらに係る支出も計画している. 生じた次年度使用額と当該年度分として請求する予算は,そうした旅費や学会参加費等として使用する計画である.
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