2022 Fiscal Year Research-status Report
ネットいじめ被害による長期的影響と回復過程―両者に基づく新たな介入方法の開発へ―
Project/Area Number |
20K03328
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
藤 桂 筑波大学, 人間系, 准教授 (50581584)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 寛子 埼玉学園大学, 人間学部, 准教授 (30364425)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ネットいじめ / インターネット / メディア / 長期的影響 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績としては,2020年度から継続している長期縦断的調査の第4,5回目を実施した。より詳細には,初年度の調査を通して抽出されたネットいじめの被害経験者と非被害経験者を対象とした縦断的ウェブ調査を行い,精神的健康状態などについて測定を行った。 分析の結果,一昨年度および昨年度に得られた結果と一貫した知見が得られ,ネットいじめの被害経験後から数年以上が経過した時点であってもなお,被害経験者の方が非経験者よりも精神的健康がネガティブな状態にあることが示された。加えて,被害経験者の方が,ネット上での誹謗中傷・荒らし行為に対する態度が否定的ではなくなっていることも示された。さらに,被害経験者にとって,当時の出来事が,自身の価値観に動揺をもたらすより深刻なものとして認知されているほど,これらの長期的影響が顕著になり得ることも明らかとなった。 また,被害経験者を対象に,家族や友人などの周囲の他者への相談行動の状況や推移について確認した。その結果,被害経験当時と同様に,その後の長期間にわたって相談行動はなされにくいままであることも明らかとなった。 これらの知見を総合すると,被害当時のみならず,被害経験後から数年間が経験した時点においても,ネットいじめ被害経験が長期に及ぶネガティブな心理的影響をもたらし続けること,ならびに,その苦悩について誰にも開示されないままとなりやすいことにも配慮した,心理的介入方法の開発と効果検証が重要であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度において,新型コロナウイルス感染症の拡大・蔓延,ならびにそれに伴う様々な心理的影響が調査回答にバイアスをもたらす可能性を考慮し,ほぼ1年間にわたって調査実施を見合わせた。そのため進捗には遅延が生じており,その分を取り戻すため,1年間の期間延長を申請し,十分な研究実施期間を確保することとした(最終年度を2022年度から2023年度に延長)。ただし,そうした延長期間を除けば,次年度には目的4に相当する研究計画の実施を残すのみであり,申請当初の計画通りに研究が進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果より,ネットいじめ被害経験者において,家族や先生,友人などの周囲の他者に被害経験について相談するケースは少ないことが確認された。しかしながら,被害経験のネガティブな影響は数年後にも及ぶほど長期化し得ることも明らかとなった。 このような特徴を持つネットいじめ被害経験に対し,過去のトラウマティックな経験(特に,誰にも開示したり相談したりしてこなかった経験)からの回復に有効であり,最終的には周囲の他者に対する当該経験の自己開示へとつながることが示唆されてきた筆記開示法(Expressive writing method)を応用し,新しい観点に基づく介入プログラムを開発する。さらに,その効果検証として,無作為化比較対照試験を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度中において発生した,新型コロナウイルスの感染拡大,および,それに伴う外出自粛・登校禁止や心理的ストレスの増大等に関する社会状況に鑑み,調査計画全体を遅延させたことにより,2020年度分の予算に余剰が生じた。この余剰分を2021年度において長期縦断的調査の実施費用,および,被害経験者における心理的回復過程に関する調査の実施費用に充て,余剰分の大半を意義ある形で消費することができたものの,若干の余剰が生じたため,2022年度に繰り越すこととした。加えて2022年度においては,長期縦断調査の実施を優先するとともに,本来2022年度に予定されていた目的4に関する介入プログラムの開発・効果検証を2023年度に延長することを決定したため,その分の費用として2023年度使用額が発生した次第である。しかしながら,これらの余剰額についてはすべて,2023年度内で使用する予定であり,その目途もついている。
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