2020 Fiscal Year Research-status Report
日本の精神分析史の構築ー古澤平作の遺品調査を通してー
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20K03389
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西 見奈子 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (10435365)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 精神分析 / 歴史 / 精神分析史 / 臨床心理学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、研究計画で掲げた目的のうち、日本独自の精神分析理論の成立過程について研究を進めた。より具体的には、以下の2つの視点に注目して研究をおこなった。ひとつは、古澤平作が戦後間もない頃に雑誌「小学一年生」に連載していた教育相談である。もうひとつは、古澤平作がフロイトの最も著名な概念、エディプスコンプレックスになぞらえて名付けた阿闍世コンプレックスである。 まず、研究成果については、2020年10月17日に、教育哲学会第63回大会研究討議「精神分析と教育――教育理論としてのフロイト思想」において「精神分析から教育を考える-古澤平作による雑誌「小学1年生」の教育相談をもとに-」として発表をおこなった。そこでは、古澤が戦後におこなった「小学一年生」の教育相談の連載を始点として、古澤自身の母なるものへの希求と、古澤の分析を受けた霜田静志(1890-1973)の記録から人間におけるデモーニッシュな性質と教育との関係について論じた。発表者としては他にDeborah P. Britzman(York University)や下司晶(日本大学)が登壇し、西平直(京都大学)指定討論をおこない、活発な議論が交わされた。 さらに、2020年12月6日には、日本精神分析協会第38回年次大会において、「日本の精神分析における女性像―阿闍世コンプレックスに焦点を当てて―」を発表した。特に古澤平作が提示した概念を小此木啓吾がどのように発展させたのかを示し、阿闍世コンプレックス概念を現代的にはどのように再考できるのかを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、予定通り、遺品を管理している東京まで調査に行くことができなくなったが、入手できる史料を通して、研究を継続している。教育哲学会と日本精神分析協会での発表は、書面での討論やオンラインなどと、従来の形を変えておこなわれたものではあったが、議論は充実したものであり、実りの多い機会となった。 こうしたことから、日本の精神分析史の構築という目標に向かって概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大が終息すれば、当初の予定通り、東京での調査や国際学会の発表を再開したいと考えている。しかし、このまま難しい状況が続くようであれば、臨床の実態調査より、日本独自の精神分析理論の成立過程の方に重点を置き、研究を進めていきたい。 また、コロナ禍で研究成果発表の場が制限されていることから、研究成果を社会により広く知ってもらうため、精神分析史の研究者を一同に集めたオンライン(あるいはハイブリッド)でのシンポジウムの開催を計画している。 これまで精神分析史の研究は、精神医学、臨床心理学、文学、美学、思想、教育などとそれぞれの分野で別々に研究がおこなわれており、繋がりを持っていなかった。日本における精神分析史研究を考えると、それらを統合する場を持つことは重要であり、将来の精神分析史研究の発展につながるものとして開催を考えている。
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Causes of Carryover |
理由としては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、参加予定であったが国際学会が中止となり、国内学会は文書での議論やオンラインへと変更になったため、旅費を使用することができなかったことによる。次年度もコロナ禍によって旅費の使用は難しいと考え、日本初となる精神分析史のシンポジウムの開催を、20201年9月7日に予定しており、それにかかる費用として支出する予定である。
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