2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K03650
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
三浦 毅 新潟大学, 自然科学系, 教授 (90333989)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 等距離写像 / 端点 / Banach空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,まず複素平面の単位開円板上の正則関数で,その導関数が単位円周まで連続的に拡張可能なもののなすBanach空間を考察し,そこに自然に定義される距離に関する全射等距離写像の構造を解明した.ここでは等距離写像に全射性を仮定するものの,線形性などは仮定していないため,その構造決定は全射複素線形等距離写像に比べ議論が煩雑になる.基本的な証明手法は,これまでに知られたものを上手く適用することといえる.実際,証明にはある種の共役空間の単位閉球の端点集合を用い,それがある種の共役作用素により保存されることを用いている.しかし,実際には端点全体の集合を完全に記述することができていないため,その点を回避する工夫が必要である.その結果として,研究対象である全射等距離写像は,円板上の回転を合成作用素のシンボルとし,定数関数を荷重とする,いわゆる荷重合成作用素となるか,あるいはその複素共役で記述されることが示された.この結果により,導関数が単位開円板上で有界である正則関数のなすBanach空間に対しても,同様の結果が成り立つのかが自然な問題となる.この問題に対しては今後研究を継続しなければならない. また,実数のなす半群上で,分配法則をみたす演算の研究にも着手し,いくつかの研究成果を得ることができた.具体的には,正の実数からなる半群上定義された簡約的かつ連続な演算に対して,それによって分配される連続な演算を完全に決定した.同様の問題を,簡約的とは限らない連続演算に対しても考察し,いくつかの演算に対しては,その演算によって分配される簡約的な連続演算を完全に決定した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単位開円板上の有界正則関数は,それ自身興味深い研究対象であるが,その構造を解明しようとするとき,極大イデアル空間の位相構造が複雑であることから,各の関数の振る舞いを完全に把握することは容易ではない.このような状況ではあるが,ある種の可積分関数の場合を考えれば,そのような関数のなす空間上の全射とは限らない等距離写像でさえも構造が解明されているので,有界正則関数のなすBanach空間でも同様の結果を得ることが期待される.特に,その導関数が単位開円板上で有界であるような正則関数からなるBanach空間に対しては,対応する可積分関数のクラスでは等距離写像が決定されていることからも,同様の問題が自然に発生し,その解決が期待される.この問題の解決のため,まずは導関数が単位円周まで連続的に拡張可能な正則関数のなすBanach空間を考察し,その上の等距離写像を決定することができた.しかし単位開円板上の有界正則関数と境界まで連続拡張可能な正則関数では,その振る舞いが大きく異なるため,現時点では問題の完全解決には至っていない.しかしながら,境界への連続拡張可能な正則関数での議論により,ある種の空間の端点の集合を如何に決定するか,また端点全体の集合を完全に決定できなくとも,等距離写像の構造を解明する上で必要な情報得る手法についての知見が得られた.ここでの議論を踏まえると,単位開円板上の有界正則関数に対して,その極大イデアル空間上での振る舞いを如何に制御すれば良いか,あるいはどのように制御した情報が必要かが明らかになってきた.この方向で導関数が有界正則関数となる正則関数のなすBanach上の等距離写像を完全に決定する.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに様々な具体的関数空間とその上の全射等距離写像を考察し,その構造を解明してきた.今後は,特に単位開円板上の正則関数のなすBanach空間に着目し,その上の全射等距離写像の構造を解明する.その一つが,導関数が有界であるような正則関数のなすBanach空間である.また近年は,Banach空間全体で定義された全射等距離写像の代わりに,Banach空間の単位球面上で定義された全射等距離写像の構造が活発に研究されている.この問題は,Banach空間の単位球面上の全射等距離写像は,Banach空間上の全射等距離写像に拡張可能か,を問うTingley's problemに由来する.Tingley's problemは有限次元Banach空間に対してでさえも完全な解決は得られておらず.たとえば局所コンパクトHausdorff空間上の,無限遠点で0になる連続関数の一様閉部分多元環に対しても未解決のようである.この問題に取り組むことにより,単位開円板上の正則関数のなすBanach空間上の全射等距離写像の構造が,異なる方向からアプローチできる可能性が広がる.特に,正則関数のなすBanach空間に対するTingley's problemは興味深い研究対象である.この問題の解決には,やはり具体的な対象の研究が重要である.たとえば導関数が単位円周まで連続的に拡張可能である正則関数からなるBanach空間に対して,単位球面上の全射等距離写像が全体に拡張可能であるか,を調べることが大きな手がかりとなる. そのためには,単位閉区間上の連続微分可能な複素数値関数のなすBanach空間を考察することが助けとなることが期待される.まずは具体的な研究対象について詳しく調べることにより,さらに一般的な対象についてTingley's problemの解明に取り組みたい.
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Causes of Carryover |
昨年度は,予定していた研究集会等が開催されず,また開催されたものはいずれもオンラインによるものに変更された.このため,適切な予算執行を行うことが困難となった.今年度に関しては昨年度の経験を活かし,オンラインでの研究集会参加を考慮した予算執行を計画し,研究が滞ることのないよう適切に研究費を使用する.
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