2022 Fiscal Year Research-status Report
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20K03650
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
三浦 毅 新潟大学, 自然科学系, 教授 (90333989)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大井 志穂 新潟大学, 自然科学系, 助教 (90891789)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 等距離写像 / isometry / Mazur-Ulam property / Tingley's problem |
Outline of Annual Research Achievements |
古典的な等距離写像の研究は,Banach空間で定義され類似の性質をもつBanach空間に値を取るものが主な研究対象であった.この研究は1932年に発表されたBanachの定理に由来するものと考えられる.実際Banachは,コンパクト距離空間上の実数値連続関数全体のなすBanach空間の間の全射等距離写像は,荷重合成作用素の平行移動であることを示した.この定理の魅力は,等距離写像という距離を保存することだけを要求する写像の性質から,荷重合成作用素というBanach空間の線形構造を保存する構造が自動的に導かれる点にある.この定理に現れる荷重合成作用素は,コンパクト距離空間の位相構造も保存する同相写像であることが示されている.従って一般の関数空間の間の全射等距離写像の構造を知ることは極めて興味深い問題である.
一方で1987年にTingleyは,Banach空間の「単位球面」の間の全射等距離写像はBanach空間全体に拡張できるか,を問題にした.この問題は「等距離写像の情報は単位球面に含まれているか」を問うものであり,様々なBanach空間に対して肯定的な結果が知られている.Banach空間の単位球面には代数構造が定義されておらず,非常に情報の少ない中から等距離写像の構造を決定する必要がある,という点で極めて困難であるが挑戦的課題である.当該年度は,可換なJB*-tripleと呼ばれる連続関数空間のある閉部分空間がMazur-Ulam propertyを有することを示した.Mazur-Ulam propertyとは,Tingley問題から自然に発生した概念であり,Mazur-Ulam propertyをもつBanach空間に対しては,自動的にTingley問題が肯定的に解決される.また単位的JB*-algebraに対しては,そのユニタリー集合上の全射等距離写像の構造を解明した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の主な研究成果として,JB*-tripleに対するMazur-Ulam propertyと,JB*-algebraのユニタリー集合上の全射等距離写像の構造決定が挙げられる.さらに等距離写像の研究に関連して,単位閉区間[0,1]上の連続微分可能な複素数値関数全体のなすBanach空間に対する2-local real linear isometryを決定することができた.2-local isometryとは,任意の2点に対しては,ある等距離写像と一致する写像である.従って,2-local isometryは局所的には等距離写像となっているが,それ自身が等距離写像であるかは分からない.それにも関わらず上記のBanach空間に対しては,2-local real linear isometryは全射実線形等距離写像であることを示した.この結果もTingley問題のように,等距離写像の局所的性質が全体を決定することを述べる定理である.
一方でMazur-Ulam propertyは,Tingley's問題に関連して,2007年のDingの研究において言及されている.ここでBanach空間AがMazur-Ulam propertyをもつとは,任意のBanach空間EとS(A)からS(E)への任意の全射等距離写像Tに対して,TがAからEへの全射等距離写像へ拡張されることをである.ただしS(B)はBanach空間Bの単位球面を表す.この定義より,AがMazur-Ulam propertyをもてば,Tingley問題は肯定的に解決されることになる.我々は可換JB*-tripleと呼ばれる,連続関数空間のある閉部分空間がMazur-Ulam propertyをもつことを示した.さらにJB*-algebraに対しては,そのユニタリー集合の間の全射等距離写像の構造も解明した.
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Strategy for Future Research Activity |
関数空間上の等距離写像の構造を解明する上で,近年活発に研究がなされているTingley問題やMazur-Ulam propertyは重要な手がかかりとなる.実際,Banach空間上の等距離写像を調べる際には,代数構造を通してその構造を調べることが可能である.しかしTingley問題やMazur-Ulam propertyで考察する等距離写像はBanach空間の単位球面で定義されているため,代数構造はもちろん,中点の構造すら利用することができない.それにも関わらずTingley問題やMazur-Ulam propertyに関する多くの結果が得られていることから,代数構造を経由せずとも等距離写像の構造を解明する可能性がある.具体的には単位球面における極大凸集合の構造から,等距離写像の情報を引き出す手法が考えられる.このような手法を用いて,具体的なBanach空間がMazur-Ulam propertyをもつことを示す結果が複数知られている.まずはこの方針に則って関数環やそれに類似する性質を有する関数空間に対するTingley問題について考察する.
具体的なBanach空間に対するTingley問題では,Banach空間A,Bが与えられ,それらの構造を用いて等距離写像の振る舞いを調べることができる.一方でMazur-Ulam propertyにおいては,Banach空間Aのみが与えられ,Bの性質がまったく分からない点がTingley問題とは決定的に異なる.そのような相違点があるにも関わらずBanach空間のMazur-Ulam propertyが議論できるのは何故か,この点を解明することにより,関数空間に対するMazur-Ulam propertyを解明したい.特に,極大凸集合とMazur-Ulam propertyとの関連性を解明することを目指す.
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Causes of Carryover |
本年度もコロナウィルス感染症対策のため,多くの研究集会が対面開催とはならず,国内外を含めオンラインによる研究集会の開催がほとんどであった.そのため,研究集会での研究成果発表のための予算を計画通りに使用することができなかった.一方において,本年度末に開催された日本数学会は従来型の形式で行われ,次年度についても様々な研究集会が対面により開催されることが予定されている.また海外の研究集会に参加することも可能性が高まり,研究遂行のために必要な口頭発表のための出張旅費として,当初の研究計画に準ずる形で次年度使用額も適切に使用する.
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