2022 Fiscal Year Research-status Report
Mathematical analysis for surface waves arising from body waves and its applications
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20K03684
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
川下 和日子 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 准教授 (40251029)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 逆問題 / 囲い込み法 / 波動方程式 / 複数種の境界条件 / 曲率 |
Outline of Annual Research Achievements |
逆問題における囲い込み法は、調査対象の内部の空洞や介在物までの距離や形状などを偏微分方程式から引き出す手法の一つで、指示関数を導入し、そのパラメーターを大きくした場合の漸近挙動から情報を得る方法である。この方法により行われてきた多くの研究において、調査対象の障害物に対し、穴の境界条件や異物の密度などに同質性の仮定がおかれ、指示間数の符号が一定になる場合のみが考察されてきた。そこで今回はこの仮定を除いて、Dirichlet境界条件、Neumann境界条件などの複数種の穴が混在する場合に、波動方程式を用いてそれらの穴についての情報を引き出すことを目的として研究を行った。 成果の一つ目として、時間微分についてラプラス変換を行った波動方程式に対する楕円型評価による方法で、複数種の穴が混在している場合についても観測点から障害物までの最短距離と穴の種類に関する情報を引き出せることがわかった。これは過去の研究で主に用いられてきた方法であるが、今まで以上に精密な評価を行うことにより可能となることがわかった。ただし、例えば観測地から穴までの最短距離が、Dirichlet境界条件の穴とNeumann境界条件の穴の両方で同じになる場合は扱えない。そこで次の研究として、散乱理論においてよく用いられる漸近解(近似解)を構成し、その表示を指示関数の解析に取り入れた。これによって得られた指示関数の漸近展開の初項に着目すると、Dirichlet境界条件の穴とNeumann境界条件の穴が観測地から同じ距離にある場合、それぞれの表面の幾何的形状に関する値の差が漸近展開の初項に現れ、曲率が小さく曲率半径の大きい穴の方が最短の穴として観測されるという結果になった。このときに昨年度まで大きな問題として残っていた、穴の境界の滑らかさについての課題も一定の解決を見ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度も、逆問題の観点においては、実体波に対応する漸近解を用いて空洞や介在物までの距離や表面の状態についての情報を得る方向で研究を進めた。漸近解を用いて局所的に反射波を近似する手法を取り入れることにより期待する結果が得られた。前年度に引き続き、剰余項の評価のために穴の境界に高い滑らかさが必要になる点が大きな課題となっていた。そこで、楕円型の境界値問題について一般論からのアプローチで評価の改良を進め、一定の解決を見たのでその方針で論文作成を行っていた。ところが令和4年度末近くになってから、剰余項についても、観測点との最短距離をとる点の近くでの境界上の解の評価のみが重要であるということに着目すれば、問題となっている剰余項についての必要な評価が良い形で得られることがわかり、大きな方針転換を行うこととなった。結果として楕円型の境界値問題についての境界上での解の評価についての結果は必要なくなってしまったが、新たな観点により、非常にシンプルに必要な結果が得られることがわかった。 もう一つ掲げていた表面波のエネルギー分布の観点からのアプローチについても検討を進めているが、表示式が複雑なためレーリー波の時と同じレベルの評価を得ることはできておらず、現状で得られている計算結果は発表できる内容には至っていない。エバネッセン波はレーリー波と比べると影響力が弱いのではないかという予想があるが、実体波の入射による表面波が現れる臨界角の部分の影響もあり、エネルギー的にみると一層曖昧な形になってしまうため、この観点でのレーリー波との違い等の結果は得られていないのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは令和4年度に得られた結果について、草稿論文の完成および投稿を行い、論文発表を行いたい。これらは表面波の逆問題への応用という目的には及んでいないが、周波数を固定して入射した波に対し反射波を考えて漸近解で近似しているという点で、楕円型の評価のみを扱っていたときよりも、実体波の入射による表面波に一歩近づいているのではないかと考える。また、ここまでに得られた結果から、障害物の表面の情報を得る方法としては、実体波による逆問題の研究を進めていくことが現段階では重要であると考えている。実体波によってどこまでできるのかを明らかにすることにより、表面波をどのように用いるべきかについて探っていきたい。 表面波については、逆問題とは別に、エネルギー分布の観点でも少しずつ検討を進めていきたいと考えている。コロナ対策も緩和した中で研究集会に対面参加したところ、半空間の弾性波散乱の放射条件についての研究で、エバネッセン波は剰余項に含まれてしまうという結果が研究者により報告された。このときレーリー波は剰余項には含まれていないので、このことから、エバネッセン波の影響力がレーリー波よりも低いのではないかということが予想される。今後もこのような研究者の方々と直接に交流を行い、この観点でも少しずつ研究を進めて行きたいと考えている。 コロナ感染症対策はほぼ収束したが、この度の経験で学んだオンラインによる会議・研究打ち合わせによる方法を今後もできる限り活用し、幅広く柔軟に情報収集ができることを期待している。必要に応じて出張等により直接に研究者との交流を行いつつ、適宜、コンピュータ等の通信機器の拡充・更新、ソフトウエアの導入も行っていき、今後の研究を進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
令和4年度当初の方針としては、情報収集・整理のためのパソコン等の通信機器の準備、図書等の資料の購入および情報収集・研究交流のための旅費・謝金が必要になると考えた。しかし、コロナ感染症対策や、令和2年度・3年度の研究の進捗状況が良くなかったこともあり、成果報告等の支出は令和4年度も少なめとなり、次年度使用額が生じている。 令和5年度である現在は、研究者と直接会って交流を進めることも容易になってきたので、今後は今までよりも積極的に出張等も行っていきたいと考える。一方、今後の情勢いかんにかかわらず、この度経験してきたことや、学んだことをもとに、対面での交流とオンラインでの情報収集をバランス良く用いて研究を行っていきたいと考える。そのために、今年度もこれまでに準備した機器等を活用しつつ、新たに必要となる機器の拡充・更新、ソフトウエアの導入を行っていきたい。
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Research Products
(2 results)