2022 Fiscal Year Research-status Report
閉曲面上のグラフの生成定理と局所変形理論の融合的研究
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20K03714
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
鈴木 有祐 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (10390402)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 四角形分割 / 多面体的グラフ / 閉曲面 / 偶三角形分割 |
Outline of Annual Research Achievements |
閉曲面上の偶三角形分割とは各頂点の次数が偶数であるような三角形分割のことである.偶三角形分割に対してその性質を保存するような局所変形がいくらか定義され,それらによって移りあうグラフを分類するという研究が存在する.特に,P-splittingとP-contractionと呼ばれる変形を用いると「有限個の例外グラフを除き,閉曲面F2上の任意の2つの3-染色的三角形分割はそれらの変形で互いに移りあう」という事実が示されている.(3-染色的三角形分割は偶三角形分割である.)上記の有限個の例外を,例外的3-染色的三角形分割と呼ぶが,種数の小さい閉曲面に対してそれらのグラフが実際にどのくらい存在するのかを考え,オイラー標数-8の閉曲面に対して,K_{5,5,5}から6-閉路に対応する辺を除いたものが唯一の例外的3-染色的三角形分割であることを示すことに成功した.(これより種数の小さい閉曲面に対しては,例外的3-染色的三角形分割が完全に決定されているが,そこで得られたグラフは全て完全3部グラフになっている.)完全3部グラフが閉曲面に三角形分割として埋め込み可能であれば,定義より必ず例外的になっている.向き付け可能な閉曲面に対してはWhiteの結果,向き付け不可能な閉曲面に対してはEllingham等の結果より,完全3部グラフの種数が示されており,三角形分割可能なものもその結果から直ちに得ることが可能である.つまり,任意の自然数Nに対して,種数N以上の閉曲面F2で例外的3-染色的三角形分割を認めるものが存在することになる.この事実自体は簡単なものであるが,「(オイラー標数-8の閉曲面上の議論で得られたグラフのように)完全3部グラフではない例外的3-染色的三角形分割が種数に対してどのくらいの頻度で登場するのか?」という問題や,それらのグラフの構造を明らかにすべく研究を継続する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」にも記述した通り,我々はオイラー標数-8の閉曲面に対して,完全3部グラフ以外の例外的3-染色的三角形分割が存在することを示した.単にそのような例を示しただけではなく,そのようなグラフの存在が唯一であることを証明する過程において,オイラー標数-8の向き付け不可能閉曲面に対してはそのようなグラフが存在しないという事実も同時に示せている.つまり,得られた唯一のグラフは向き付け可能閉曲面上の例外的3-染色的三角形分割なわけだが,K_{5,5,5}から6-閉路に対応した辺を除いて得られるという対称的な構造を持っており大変興味深い.完全3-部グラフ以外の任意の例外的3-染色的角形分割が何らかの対称的な構造を持つ可能性もあり,それが見えてくることで,一般の閉曲面上の完全3部グラフ以外の例外的3-染色的三角形分割に言及する定理が作れる可能性がある. 四角形分割の変形問題は,論文に掲載するための図を複数描き,我々が得た変形の置き換えが正しいことを確認した段階である.これらの変形のプロセスが最良かどうかは未だ分かっていない状況であるが,今後も議論を継続していく. 閉曲面上の多面体的四角形分割の生成定理の論文は無事に出版されたが,そこで得られた一般的な閉曲面に対する事実を具体的な種数の低い閉曲面上で確認していく作業はまだ構想段階である.今後,自身の研究室に所属する大学院生等と,適切な時期に研究をスタートする予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
例外的3-染色的三角形分割の研究は,現在,オイラー標数-9の閉曲面に限定して,その存在の有無を確認している段階である.オイラー標数-8の閉曲面の場合と比べても,構造を特定するための場合分けが相当増えることがわかってきている.現在,自身の研究室に所属する大学院生と共に議論を行っているが,人力で収束させることができるか否かに関して,今年度半ばまでに判断を付ける予定である.仮に難しいと判断した場合は,計算機を用いて例外的なグラフを見つけるためのアルゴリズムを構築することにより状況を打破したいと考えている.可能であれば,閉曲面上の偶三角形分割に関する諸問題に対して応用可能なプログラムを作成したい.そのためには「(過去に我々が作成した)与えられた抽象グラフが三角形分割として埋め込み可能かどうかを判定するプログラム」がヒントになると考えている. 四角形分割の局所変形に関しては,現段階で得られている結果を今年度中に投稿することを目標に論文としてまとめていく.また,この結果に関する成果発表は,過去に国内の研究集会で一度行っただけである.議論をより突き詰めて,もう一度国内もしくは海外の研究集会で発表し,再度,近辺の研究者からのレビューを受け,今後の研究に活かしたいと考えている. 一般の閉曲面上の多面体的四角形分割の生成定理に関しては,手始めに射影平面上の四角形分割の生成定理に関する論文の内容を分析し,そこで今後の研究に使用できる補題等を分類する.トーラスに関しては,4-正則なグラフと,次数3の頂点を持つグラフに場合を分けて考える必要がある.4-正則なグラフに関しては既存の結果を復習し,我々の定義した変形がどのようにこのクラスのグラフに適用できるのかを検証する.次数3の頂点を持つグラフに対しては,射影平面上の議論の際に得た補題などを適用して既約なグラフの可能性を絞っていく.
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Causes of Carryover |
令和4年度も(若干状況が改善してきたものの)コロナ禍は継続しており,海外の研究集会への参加に関しては依然ハードルが高い状況であった.国内の研究集会には実際に足を運んで参加することもできたが,当初,旅費として計上していた経費は消化できていない状況である.その代わりに,他の研究者との研究打合せ等をスムースに行うためのノートパソコンやオンラインでの議論に必要なPC周辺機器などを購入し研究環境を整えた.2023年度もこれらの機器を引き続き使用して論文の執筆,講演のスライド作成,プログラム作成等の研究活動を行うとともに,オンラインでの議論なども引き続き行うことで効率的に研究を推進していく. 令和5年度は本研究課題の最終年度であるため,繰り越した残額の範囲内で国内の研究集会に参加し得られた結果を発表するとともに,他の研究者と新たに浮上した問題に対する議論を行っていく.また,研究のために必要な書籍や文房具などの購入も行い,可能な限り当初の研究計画を達成できるように努める. 本年度は横浜国立大学で国際研究集会(35th Workshop on Topological Graph Theory (TGT35))が行われる予定であり参加及び講演を予定している.また,自身の研究室に所属する大学院生にも成果を発表させる予定であるため,特に本研究課題に関連するものに注力し,結果を良い形でまとめていきたい.
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